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2007-03-02 (金)
悪夢のエレベーター 第5章 vol.113

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113

 

 それから、3ヶ月後――。

 病院から出てくるマッキーを、ジェニファーと輝男が待ち構えていた。

「退院、おめでとうございます!」

 ジェニファーが、満面の笑みでブンブンと手を握る。

「ほい。退院祝いや」

 一足先に退院していた輝男が、マッキーに肉まんの紙袋を渡す。

「何で肉まんなのよ?」

「あれ? 入院中、『食べたい、食べたい』って言ってなかった?」

「言ったけど……。ありがとう」

 この子たちったら……。

 マッキーは、嬉しさを噛みしめ両手を広げる。

 ジェニファーが胸に飛び込んできた。力強いハグが、マッキーの涙腺を緩める。

 結局、ジェニファーの活躍で、涼介と後藤は逮捕された。

 危なかった。もうちょっとで、海外に逃げられるところだった。

 オカマの勘をナメるんじゃないわよ。

 マッキーは、思う存分外の空気を吸い込んだ。

 おいしい。自由だ。狭い病室と、マズすぎる病院食ともおさらばだ。胸ヤケするほど、塩タンを食べたい。あと、お寿司も。

「さあ、帰りましょう!」

 ジェニファーが、腕を組んできた。もう片方の手は、輝男と手を繋ぐ。

「その前に、寄りたい所があるんやけど……」

 輝男が言いにくそうに切り出した。

「どこよ?」

「……馬」

「競馬場?」

 ジェニファーがムッとして、輝男の手を離す。

「ちゃうって! 場外馬券場やって!」

「一緒じゃないの! アンタ、ギャンブル止めるんじゃないの!」

「ギャンブルで生活するのは止めただけであって、趣味としてのギャンブルは……」

「マッキーさんも説教して下さいよ!」

 プーッと頬を膨らませるジェニファーを見て、マッキーは笑った。

 どうせなら、競馬場に行きたいわ。緑の芝の上を駆ける美しい馬たちの姿を見てみたい。

「これで決めようぜ」

 輝男が、500円玉を取り出した。

「ダメよ! こっちのコインを使って!」

 ジェニファーが、ジーンズのポケットから100円玉を取り出す。

「100円? 何か……味気ないなぁ……」

 輝男が、不満丸出しの顔をした。

「何言ってんの! どうせ、100円のイカサマコインが無いだけでしょ! マッキーさん、お願いします!」

 ジェニファーが、マッキーに100円玉を渡す。

 やれやれ。この二人は、いつになったらヨリを戻すのかしら。

 マッキーが、そっと右手の親指に100円玉を乗せた。

「裏」と輝男。

「じゃあ、アタシは表ね」とジェニファー。

 アタシは……。

 アタシはどっちでもいいわ。

 マッキーが、力強く100円玉を弾いた。

 100円玉は鋭く回転しながら空に舞い、太陽の光を受けてキラリと輝いた。

 

〈――悪夢のエレベーター第五章 ギャンブル・マンション編END――〉


沿線や駅、地域、価格帯など、豊富な選択肢でご希望の暮らしがきっと見つかる!

by チームKGB<木下半太> at 21:02 │comment (26)
   

2007-03-01 (木)
悪夢のエレベーター 第5章 vol.112

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112

 

 なんじゃ!? このスッチー!

 突然の出来事に、涼介は度肝を抜かれた。

 隣の後藤が、小便したまま、トイレの壁に叩きつけられたのだ。

 後藤は壁にしこたま鼻を打ちつけ、車に轢かれた蛙のような声を上げる。そのまま、ずるずると、壁づたいに崩れ落ち、便器の中に顔を突っ込んだ。

 一撃!? 何者やねん、このスッチー……。

 スッチーが、アゴが外れそうになっている涼介を見て、ニッコリと微笑んだ。

 思い出した。

「お前……昨日の……」

「ジェニファーです。よろしくね」

 ジェニファーが、80年代アイドルのようなポーズで人指し指を唇に当て、ウインクした。

 早く! 小便を止めなきゃ!

 ここは空港だ。銃は持っていない。さっきのパンチを見るかぎり、このオカマが何か格闘技をやっているのは間違いない。

 ダメだ。焦れば焦るほど、滝のように尿が出る。

「何で……ここがわかってん……」

 涼介が泣きそうな声で言った。

「一か八かの賭けよ。マンションが摘発された以上、ほとぼりが冷めるまでは身を隠さなきゃダメでしょ? となると、かなりの確率で海外に逃げる。ただ、あれだけの金と麻薬を持って飛行機に乗ることはできない。麻薬を現金に換え、金は銀行に振り込む。どう考えても半日以上はかかる。だから、コスプレ屋で、この制服を借りて14時間前から張り込んでいたのよ。どう? 似合う?」

 ミスった……。甘く見ていた。せめて、変装するべきだった。

「てめえ、こんなことして俺のバックが黙ってるとでも──」

「組長のお父さんでしょ? 何て言うの? 『パパ〜、オカマにボコボコにされたよ〜』って泣きつくの?」

 このオカマ、ビビッてない……。

 小便が止まった。

 逃げるなら今だ! 

 涼介は、振り返り、全力疾走で逃げようとした。

 背中に何かがぶつかった。もの凄い衝撃に体が浮きあがる。

 蹴られたのか? 

 どんなキックやねん……。

 涼介は、個室トイレのドアを突き破って、和式の便器に頭から突っ込んだ。

by チームKGB<木下半太> at 12:39 │comment (2)
   

2007-02-28 (水)
悪夢のエレベーター 第5章 vol.111

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111

 

 ──26時間後。関西国際空港。

「見ろや、あのスッチーのケツ。たまらんのう」

 涼介が、目の前を歩く客室乗務員を指して言った。

 この男、緊張感のカケラもないな……。

 後藤は、鼻の下を伸ばす涼介の横顔を見て思った。自分が捕まるとは夢にも思っていないのだろう。

 まあ、俺もそうだけどな……。

 ギリギリだった。運良く成功したが、危険な賭だった。

 どっぷりと不正に手を染めていた後藤にとって、今回の涼介から持ちかけられた話は、まさに渡りに船だった。いつか、麻薬取締官の自分が捕まるかもしれない。そのプレッシャーから開放されるタイミングを計っていたのだ。

 あと、5時間もすれば香港につく。そこから、マカオに移動してギャンブル三昧だ。高飛び先も、カジノの街だというのが涼介らしい。

「おいっ! ちんたら歩くなや! 急げや!」

 後藤は、涼介に罵られたが、こみ上げる怒りをグッと押さえつけた。

 マカオに着くまで、今回の報酬を貰えないのだ。そこからは自由だ。こんな年下のネズミみたいな男に、いつまでもヘイコラしていられない。

 そうだ。まずは、ホテルにチエック・インしたら女を買おう。ルーム・サービスで、血の滴るステーキとドンペリとイチゴを頼んでやる。

 後藤は、一人でニヤつきながら、涼介のあとを歩いた。

「小便に行くぞ」

 涼介がトイレに入る。

 小学生かよ! ガキじゃあるまいし、連れションか、ボケが!

 後藤は、涼介に聞こえないように舌打ちをして、トイレに入った。

 涼介の横に並んで用を足す。

「さっそく女遊びしようと思ってるやろ」

 涼介の小便をしながら、おもむろに言った。

 後藤は、ドキッとしたが、必死で顔に出ないように奥歯を食いしばった。

「それもいいですね」

 この男はするどい。生かしておくのは危険過ぎる。マカオで殺した方が──。

 その時、トイレの入り口から人の気配がした。

 えっ?

 さっきの客室乗務員が、堂々と入ってきたのだ。

 間違えてる?

「ここ男便所ですけど」 

 後藤は、思わず注意した。

「あってるわよ。生物学上ではアタシ男だもん」

 客室乗務員が聞き覚えのある声で言った。

 この女……昨日の……確かジェニ子って呼ばれてた……。

 次の瞬間、女の固い拳が、後藤の後頭部に突き刺さった。

by チームKGB<木下半太> at 13:33 │comment (2)
   

2007-02-27 (火)
悪夢のエレベーター 第5章 vol.110

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110

 

 マッキーたちは半ば放り出されるようにして、救急車から降ろされた。

 輝男の指定でコンビニの前に救急車は止まった。ここなら、後藤もやみくもに撃つことはできない。

 救急車が去ったあと、血だらけのマッキーと輝男を見て、何事かとコンビニの店員が走ってきた。

「どうしました? 何があったんですか?」

 マッキーは、本当のことを言いたいのをグッと我慢して、適当な嘘をついた。

「救急隊員の人とケンカしちゃったのよ。あんまり、しつこくアタシの電話番号を聞いてくるもんだからさ。頭にきてビンタしてやったの」

 腹を撃たれてる奴のセリフではない。

「は、はあ……」

 それでも店員は信じたようだ。

「とりあえず、別の救急車を呼びますね!」

 大慌てでコンビニへと戻って行った。

「良かったな。イカサマがうまくいって。芸は身を助けるってやつやな」

 輝男が、満足げに頷く。相変わらず、手首からは出血しているが、イカサマの成功でテンションが上がっているのだ。

「全然、良くないわよ! 思いっきり綱渡りじゃないのよ! もし相手が500円玉を選ばなかったどうするつもりだったのよ!」

「その時はその時で……ま、運勝負になるわな」

 危ない……。何考えてんのよ、この男。

「……いつもこんな変なコインを持ち歩いているわけ?」

 マッキーが、両面とも500と数字の入った硬貨を見て言った。

「そうや。ギャンブラーは、いつ勝負を持ちかけられるかわからんからな。コツは、相手にコインを選ばせることや」

「ビョーキね」

 ジェニファーが呆れたようにため息をつく。

「ええやんけ。助かってんから」

 輝男が、まだ暗い空を眺めて、大きくアクビをした。

 あと、一時間もすれば夜が明けるだろう。

 やっと悪夢が終わったのね……。

 マッキーは、ホッと安心すると猛烈に眠くなってきた。

 マッキーが大きくアクビをした。それにつられて、ジェニファーも大口を開けてアクビをした。

 三人ともが目を合わせて、少し笑った。

「これで、一件落着やな」

「どこがよ! 涼介と後藤は、まんまと逃げちゃったじゃないのよ!」

 ジェニファーが口を尖らす。

「それは悔しいけどな……。どこに逃げるんかな?」

「……海外じゃないの? ねえ、このままあいつらを許してもいいの?」

「いいわけないでしょ」

 マッキーが、眠りに落ちる寸前に言い放った。

by チームKGB<木下半太> at 13:09 │comment (0)
   

2007-02-26 (月)
悪夢のエレベーター 第5章 vol.109

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109

 

「じゃあ、俺は表やな」

 涼介が重い声で言った。

 車内に緊張が走る。

 ジェニファーがゆっくりと右手を開いた。

 マッキーの目に、500の数字が飛び込んでくる。

 裏だ!

「やったわ! 勝った!」

 ジェニファーが両手を合わせ、祈るように喜んだ。

「何だそりゃ?」

 後藤が舌打ちをして呻く。

「待て」

 涼介が、ジェニファーに言った。

「何よ?」

「念のために500円玉を見せろや」

「負け惜しみ? 残念でした! 今度はれっきとした本物だよ!」

 ジェニファーが、嫌みたっぷりに鼻にシワを寄せ、手の中の500円玉を涼介に放り投げた。

 500玉は正真正銘の本物だった。

「さあ、約束を守ってもらおうか」

 輝男が、涼介に言った。

「馬鹿野郎! そんな甘い話があるわけねえだろ!」

「じゃあ、救急車内に血を塗りたくってもいいんだな。何なら、今、撃ち殺すか? さぞかし血が飛び散るやろうな」

「ぐっ……」

 後藤が言葉を詰まらせた。

「フッ。おもろい奴やな。どうや、傷が治ったら俺のマンションでディーラーとして働かへんか? いい金出すぞ」

 涼介が輝男を誘った。

「遠慮しとくわ。今のが俺にとっての最後のギャンブルや」

 輝男が真剣な目で言った。

「残念やの。巨万の富を掴める可能性があんのに」

「いつか身を滅ぼすやろ」

「言えてるかもな」

 涼介が自嘲気味に笑った。

「車を止めろ!」

 涼介が運転手に指示を出した。

 やっと助かるのね……。

 マッキーは、ジェニファーと目を合わせ微笑みあった。

 ジェニファーがギュッとマッキーの手を握りしめてくる。

 えっ?

 シェニファーが手を握りながら何かを渡してきた。

 見なくてもわかる。

 この感触。500玉だ。

 アンタたちイカサマしてたの?

 でも、いつの間に……。

 マッキーは、ハッと思い出した。

 輝男が、財布を出す前、『頑張ってね……』とジェニファーと手を握りあった。『おいおい、イチャついてる場合かよ』と後藤に罵られたのを覚えている。

 あの時、すでにイカサマの500円玉をジェニファーに渡していたのね……。

 マッキーのイカサマのスロットコインはオトリだったのだ。

 輝男は、わざと涼介にイカサマがバレるように仕組んだのだ。本命の500円玉のすり替えを成功させるために……。

 輝男が、マッキーにウインクした。

 間違いない。この男、絶対ギャンブルやめないわ。

by チームKGB<木下半太> at 13:30 │comment (2)
   

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プロフィール
ハンドルネーム
チームKGB<木下半太>
自己紹介
木下半太 小説2作目『悪夢のドライブ』(幻冬舎)が7月より好評発売中!!                劇団チームKGB 11月本公演 「弾丸キャバレー2929」@千日前TORII HALLにて、2007年11月17(土)〜25日(日)※全席指定 公演予定!!『一発の弾丸が宇宙を揺るがす!』チームKGBがこの秋贈る、完全無欠のSFショータイム!!チケット9月中旬より発売開始! 「1COIN KGB」番外公演〜CAFEで笑えばいいじゃんよ〜船場&`s sceneにて、2007年早春から32週にわたり行われたイベント1COIN KGBが好評に付き10/28〜30番外公演決定!場所を変え大阪 神戸の大御所CAFEでの公演開催!詳細は…http://www.team-kgb.com          木下半太 1974年生まれ。大阪府出身。小説家・俳優。映画専門学校中退後、脚本家・俳優として活動を始める。ユーモラスなキャラクターが登場するサスペンスを得意とする。サスペンス・コメディ劇団「チームKGB」主宰。全公演の脚本・演出を手掛ける。'06 7月より幻冬舎から小説「悪夢のエレベーター」を出版。本書が小説デビュー作となる。「悪夢のエレベーター」がフジテレビでドラマ化され、東京を始め全国でも放送される。(主演:インパルス堤下さん) 「チームKGB」は、シュールな世界感とブラックな笑いを武器にカフェからストリップ劇場まで幅広い活躍をみせる。 CM、映画出演、一人芝居ライブやDVDドラマも制作し、2007年11月には本公演を予定。韓流パロディドラマ「夢が叶えば」などのDVDもHPより発売中!2007年1月から9月まで毎週月曜日南船場&'s sceneにて、1コイン(500円)イベントを行い好評を得、10月には番外公演決定。 http://www.team-kgb.com
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