2010-02-08 (月)

再生 続・金融腐蝕列島 上          カルチャー /本・雑誌

高杉 良 著

竹中は昭和四十九年(一九七四年) の協立銀行入行組みで、四十五歳。

営業本部プロジェクト推進部は、大口の不良債権および利払いが六ヶ月以上滞納している要注意債権を取り扱うセクションだ。

不良債権を放棄するか、償却するのか、その方法は破産処理なのか等々、ぎりぎりの判断を求めらる。竹中は副部長だが、ヤクザが絡む案件もままあるので、命懸けの仕事を強いられる過酷なポストである。

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杉本は、東京地検十二階の検事室で、午後四時三十分から午後十時まで担当検事の尋問を受けた。

三十五、六の若い検事の言葉遣いは丁寧だったが、杉本は被告人扱いで、ぎりぎりと締め上げられた。

「杉本さんが、東邦信託銀行の大蔵省検査報告書を入手したのは、いつですか。日時を特定してください」

「五年分のノートを先日提出しましたので、はっきりしませんが、平成八年五月中旬ごろと記憶しています」

「誰の指示によるものですか。会長ですか、頭取ですか」

「わたしの一存です」杉本は終始うつむいていた。検事を正視できなかった。

検事が右手のこぶしで、デスクを激しく叩いた。

「示達書といえば、極秘文書ですよ。あなたの一存で、そんなことができるんですか。正直に答えてください」

「誰だかよく覚えていませんが、上の者に東邦信託の経営状態はどうなっているのかね、大蔵省の検査報告書を見れば一目瞭然だが、と言われたような気もするんですが・・・・」

佐藤明夫の名前が口をついて出そうになったが、杉本は必死に堪えた。

       

       圧倒的迫力で銀行の実態を描く問題作!!

中高大生推薦

評価★★★★★

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by 毘沙門のPIG at 16:02 │comment (0)

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2010-02-01 (月)

最悪          カルチャー /本・雑誌

奥田英朗 著

調布経由で工場に戻ると、信次郎はトラックから積荷を降ろし、早速新しい作業の準備をした。コビーと松村は、先週から続いている自販機部品のスポット溶接をこなしていた。

「シャチョさん、おかえりなさい」

コビーが屈託なくほほ笑み、松村は黙ったまま小さく頭を下げる。プレハブ資材で囲っただけの事務室から春江がうかない顔で出てきた。

「ねえ、おとうさん」

「うん、どうかしたのか」

「前の太田さんって覚えてる?」

「ああ。あの派手な眼鏡した奥さんだろ」信次郎の顔が少し曇る。「また何か言ってきたのか?」

「日曜日は音を出さない約束でしょ、だって」

「そんな約束してないよ」

どうやら昨日の作業についての苦情らしかった。

「そうよね、してないわよね」春江が口をとがらせた。

これでも機械の出す音には気を遣っていた。付近に住宅が建ちはじめたころから、誰に言われるでもなく吸音材を壁に組み入れたのだ。その費用だけでも数十万はした。隣の「山口車体」の社長は、「あとから来ておいてふざけるな」と息巻くが、信次郎はそこまで開き直る気はない。

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 和也は死体のように床に横たわっている。

「ええか、小僧、よう聞けよ」頬に金属を感じる。それは日本刀の切っ先だった。「てめえらの持ち出した黒のワゴン車はなあ、見られてしもうたんや。近所の工場の宿直当番とやらにな。六十過ぎのじいさんだとよ。老眼は近くのもんは見えんけど、遠くのもんはよぉ見えるそうや。」

男が今度はタカオに日本刀を向けた。タカオはとっくに血の気が失せていて、唇さえ真紫だった。あの威勢のいいタカオがこうなっていることが、こんな事態でありながら憂鬱だった。

「おかげであっという間に足がついて家宅捜索じゃ。わかっとんのかいな、このガキが。昨日、事務所がガサ入れ受けたんやぞ。それもなあ、この事務所やあらへんわ。ここの兄弟関係の組や。浅田組や。ええか、あのワゴンは浅田さんのところから譲り受けたもんでなぁ、名義は昔のまんまなんや。番号調べりゃぁ向こうに足がつくんじゃ。わかっとんのかいな。おかげでおれはエンコ詰めじゃ!」

「おのれらここで葬式出したろか。絶対に許さへんど!」

 

無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。

                    比類なき犯罪小説 !!

 中高大生推薦

評価★★★★★

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2010-01-25 (月)

あやし          カルチャー /本・雑誌

宮部みゆき 著

居眠り心中

 家のなかはしんとしている。

「ごめんください」

応える声は聞こえない。

「ごめんください、瀬戸物町からお遣いに参りました」物音ひとつしない。

銀次は台所の土間の上がり口に腰をおろし、ため息をついて、手近の柱にもたれた。くたびれた。さあどうしよう。若旦那から言い付かった包みだけ置いて帰ろうか。だけどそれだけでは受け取った方も何がなんだか判らないだろう。判らなければ、おはるが若旦那を少しでも勘弁して、もう怖い夢枕に立つようなことはやめようと、気持ちを和らげるきっかけにもならない。

 

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 「布団部屋

「おさとの四十九日は、たしかに過ぎたよね」

そう、昨日が四十九日だったのだ。人は死んだあと、四十九日まではたましいがこの世にとどまるが、それを過ぎたらあの世に行くのだと言われている。だから、姉の四十九日がいつくるか、おゆうはちゃんと数えていた。その日がすぎたら、姉さんの気配が消えてしまうかもしれないと、心配でたまらなかったからだ。

「はい、昨日でしたから」

おゆうが返事をすると、お光はうなづいて、唐紙をすいと開けた。

「なかにお入り」と促されて、おゆうは座敷に足を踏み入れた。かび臭い湿った空気が、おゆうを包み込んだ。息苦しくなるようだった。

「枕を置いて、横になって夜着をかぶりなさい。布団はないから、畳にじかに寝るんだよ」

お光は、自分は座敷のなかに踏み込まず、入り口の唐紙の手前で蝋燭をかざして、てきぱきと命令した。おゆうが言われたとおりに横たわると、そこに立ちはだかったまま言った。

「明日の朝、あたしが起すまで、そこで寝ておいで。外に出ようとしちゃいけないよ。あたしは一晩、廊下で見張っているから、逃げようとしたらすぐに判るからね」

逃げたらお店においてもらえなくなるよと念を押し、お光は唐紙を閉めた。じっとりと濃い闇が、待ちかねたようにおゆうの上に落ちかかってきた。

      

    月夜の晩に本当に恐い江戸ふしぎ噺  九編

 

中高大生推薦

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2010-01-18 (月)

坂の上の雲 二          カルチャー /本・雑誌

司馬遼太郎 著

 戦争がはじまろうとしている。

いわゆる日清戦争である。日本の近代史が初めて経験したこの対外戦争を、この物語のなかにおける三人の伊予人も、当然ながらそれぞれの場所で経験してゆく。

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 子規は東京大学国文学科進んでいたが退学を決意した。郷里の母親や叔父などはそのまま学業をつづけてとにかくも文学士になってくれることを切望したが、子規の決意はかたかった。

落第と退学については、子規の保護者である陸羯南(くがかつなん)に対し、まっさきに報告に行った。羯南はこういうことについてすら優しかった。

羯南は子規よりも自分をなぐさめるようにいった。羯南は親友の加藤恒忠から子規をあずかり、子規の東京遊学中のことについては責任をもたされている。その子規が落第して退学したとあれば、フランスにいる加藤に申しわけが立たぬようにもおもえるのである。

「いいさ。加藤に対しては私からも手紙を出しておく。あれはこういうことにおどろくような男ではありませんからね」

「先生は、いかがです」

「私もおどろきゃしませんよ」

と、あわれな子規をなぐさめるために、ことさら顔に力を入れ、うなずいてみせた。

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連合艦隊の全勢力は、

軍艦二十八隻、水雷艇二十四隻、合計トン数は五万九千六十九トンであり、これに対して清国海軍は四大艦隊をもち六十四隻の軍艦と二十四隻の水雷艇をもち、合計トン数は八万四千トン。しかしながらこのうち日本にあたるのは北洋艦隊で、この勢力は軍艦二十五隻、水雷艇十三隻、合計トン数は五万トンで、ほぼ日本のそれにちかい。

ただ北洋艦隊は鎮遠、定遠という世界最新鋭の戦艦をもち、ぶあつい装甲板による防御力と旋回式砲塔による攻撃力をそなえ、この点で日本艦隊よりもはるかに有力であった。日本艦隊のうち九隻は鎮遠・定遠におよばぬにしても鋼鉄製で四千トン前後の大艦であり、運動性も高く、主力決戦にもちいることができた。が、他は老朽か旧式艦が多く、天竜、葛城、海門、天城、磐城にいたっては木造艦であった。

 

大国「清」との開戦に陸軍少佐秋山好古は騎兵を率い、海軍少尉真之も洋上に出撃した。

一方正岡子規は胸を病みながらも近代短歌・俳句を確立しようと命を振絞る。

             「坂の上の雲」NHK公式サイト

中高大生推薦

評価★★★★★

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2010-01-12 (火)

坂の上の雲 一          カルチャー /本・雑誌

司馬遼太郎 著

この物語の主人公は、あるいはこの時代の小さな日本ということになるかもしれないが、ともかくもわれわれは三人の人物のあとを追わねばならない。そのうちのひとりは、俳人になった。俳句、短歌といった日本のふるい短詩型に新風を入れてその中興の祖になった正岡子規である。子規は明治二十八年、この故郷に帰り、

春や昔十五万石の城下かな

という句をつくった。

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 「信さん」

といわれた秋山信三郎 好古は、この町のお徒士の子にうまれた。お徒士は足軽より一階級上だが、上士とは言えない。

信さんが十歳になった年の春、藩も秋山家もひっくりかえってしまうという事態がおこった。

明治維新である。

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 伊予松山の町では、九つ下の弟真之が成人している。幼名を淳五郎といった。

秋山の淳ほどわるいやつはいない。

というのが、近所の評判であった。他のこどもよりずっと小柄で、色が黒く、目が小気味いいほどに光っている。走るときは弾丸のように早く、犬も及ばなかった。

七、八歳のころ、雪の朝、真之は厠にゆくのが面倒なあまり北窓をあけてそこから放尿した。歌をつくった。

雪の日に北の窓あけシシすれば あまりの寒さにちんこちぢまる

というものであった。

 

日露戦争でコサック騎兵を破った秋山好古

日本海海戦の参謀秋山真之兄弟と文学の世界に巨大な足跡を遺した

正岡子規を中心とした明治の群像長編小説!!

  

          NHKドラマ坂の上の雲公式サイト

 

中高大生推薦

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2010-01-05 (火)

剣客商売 庖丁ごよみ 好事福盧          カルチャー /本・雑誌

池波正太郎 著  近藤文夫 料理

ずいぶん前のことになるが、例年のごとく十二月の、しずかな京都へ来た私は、村上開新堂で「好事福盧」を買いもとめ、ホテルへもどろうとした。

昼ごろであったろう。

開新堂の近くに、尚学堂という古書店がある。

そこへ入ると、歌舞伎俳優の中村又五郎がいて、古書を漁っていた。

いまの又五郎さんと私は、親しい間柄になっているが、当時は、こちらは知っていても向こうさまは御存知ない。

で・・・・そのとき、又五郎を見たとたんに、私は、

(これだ)

と、思った。

そろそろ書き出そうとしていた「剣客商売」の主人公・秋山小兵衛の風貌そのものの又五郎さんだからだった。

 

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< 南京落雁 >

「これは、先生の大好物でございます」と、落合孫六が差し出したのは、四谷塩町一丁目の菓子舗・富士屋又兵衛方で売り出している<南京落雁>であった。この菓子は、蕎麦粉と麦の炒り粉の中へ、胡桃の実をまぜ合わせ水飴でねりあげ、型にはめて乾かした干菓子で、むかし、四谷仲町に道場を構えていたころ、秋山小兵衛は酒のあとに、濃くいれた茶で、この南京落雁をつまむのが大好きだったのを、孫六は、(ちゃんと、おぼえていた・・・・)のである。「おお、おお・・・・よくも、忘れずにいてくれたのう」さすがに小兵衛も、愛弟子のこうしたこころづかいがうれしく、かすかに泪ぐんだようであった。      

             

                                  「天魔」中「雷神」より

 

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  < 雪みぞれ >

不二屋太兵衛は、泣き声になっている。(中略)

他の端仲町の菓子舗・不二屋といえば<雪みぞれ>という銘菓で知られている。

高級店が軒をつらねる仲町に店舗を構えているだけに、店構えは小さくとも、不二屋の名は江戸市中に知れわたっており、大名・武家屋敷の御用をもつとめている老舗なのである。そこの主人にしては、いかにも腰が低い。

                                     「春の嵐」より

中高大生推薦

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2009-12-28 (月)

価格破壊          カルチャー /本・雑誌

城山三郎 著

大晦日、その男矢口は走っていた。

彼は何時も走っている。「急がなけりゃ」「急がなけりゃ、くさってしまう」

急ブレーキをかけ車が止まった。「ばかもの!」運転者はどなった。

「なんだ、矢口か、どうして信号を見ないんだ、急いででもいたのか」

「どこへ行く。乗せて行ってやるぞ」

「この二町ほど先だ。クスリ屋をやっている」

「この先のクスリ屋?すると、あの安売りをやっている・・・・」

「ひどい安売りで、業界では物議をかもしているそうじゃないか」

「客は喜んでいるよ」

「安く売りゃ、客は来るだろう。しかし、クスリは安く売っちゃいかん商品なんじゃないのか。メーカーが怒るだろう」

「だから、こうやって、はるばる仙台まで行って仕入れてくる」

「仙台まで?東京にないクスリなのか」

「あるにはあるが、東京の問屋は卸してくれん。<矢口に売るなら、以後、出荷をとめる>と、メーカーから圧力をかけられてね。だから、地方の問屋へ現金を持って買い出しに行く」

「水戸で買い、宇都宮で買い、福島で買い、いや、買えなくなって、だんだん遠くへ行かねばならなくなった。一度は買えるが、二度と買えないからだ。」

「北海道へでも九州まででも仕入れに行くさ」

 

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「でも、これで函館は終わり、札幌、旭川と、幾つ残っているのかしら」妻の奈津子は指を折りながら心細そうに言う。

矢口は聞き流した。北の果て南の果ての海の中に現実に追い落とされるまで、とにかく続けてやっていこう。

函館から帰って数日後、矢口は今度は西へ仕入れに下った。関門海峡を越え、福岡へ。夜行列車で気の遠くなるような長い旅である。一度行くごとに、さらに次ぎは遠くへ行かねばならぬ。

「奥さん、釣銭がありません」「先刻、八洲銀行へ両替に行ったでしょ」「断わられたんですよ。取引もないくせに両替ばかりされては困るって」「どこかほかの銀行・・・・・少し遠いけど、中京銀行へ走ったら。あそこなら、いつも替えてくれるわ」  

      再販価格に挑戦し流通革命をめざした

   大手総合スーパーDと創業者N氏の半生を描いた傑作!

中高大生推薦

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2009-12-21 (月)

香乱記 一          カルチャー /本・雑誌

宮城谷昌光 著

砂丘が黄金の色になり、燦と輝いた。

車輪がすべりはじめると、田横は手綱を兄の田栄にあずけて馬車をおり、従者とともに車体を押した。すこしさきをゆく馬車には従兄の田儋がおり、やはり従者が砂丘をぬけるべく車体を押していた。

夕映えの天空をけがすような砂煙が昇っている。

「秦兵だ。かかりあうな」この田儋の声で、みなは道をあけた。

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七十余年前に、大きな不幸が田氏を襲った。燕の名将である楽毅を上将軍とする秦、韓、魏、燕、趙の連合軍を結成してあの太公望を始祖とする斉を攻めた。そのときの斉王が湣王であり、かれこそが狄の田氏の祖である。このとき国外に脱出した湣王は、けっきょく殺されてしまうのであるが、生き延びた二、三人の王子の一人が狄の田氏三兄弟の祖父である。

田横たちは賊徒に襲われた長髪の占ないをする助け臨淄までともにするなかで男は田氏三兄弟みながそれぞれ王になるという。

この男こそ天下第一の人相見の許負であった。


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  田横と許負のふたりは庭にでて闇の底にすわった。天空には雲が多いらしく、星がよくみえない。

「一昨日、わたしは災難に遭うことがわかっていた」

細い声であるが、あたりがしずまりかえっちるので、田横にはよくきこえる。

「災難を避けることもできたのに、なぜそうしなかったのか」

「その災難によって死ぬことはない、とわかっていたこともあるが、三人の王に遭うことに感心があった」

「あなたはふたりの兄を護る星のようなものだ。が、あなたを護る星もいる。目をあげるがよい。星はいくつみえるか」

田横は星をかぞえた。六つしかみえなかった。

「六、だな」

七つみつけなければ、事は成就せぬ。のこりのひとつは、雲のむこうにある。七星をさがしあてなさい

     ここから田横の波乱の生涯が始まる歴史巨編第一巻!

中高大生推薦

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2009-12-14 (月)

島津奔る 下巻          カルチャー /本・雑誌

池宮彰三郎 著

肥後との国境に近い薩摩出水郷上知識の畑で、中馬大蔵は炎日にあぶられながら、唐芋(甘藷)  の収穫に汗を流していた。

暑い、今年の夏は格別の暑さじゃ。

中馬大蔵は目のくらむような熱気に、気が遠くなるような思いだった。

「お〜い!中馬よ」

遥かな街道の方で、呼ばわる声があった。「おう!誰じゃ!」

問いかけようとして、中馬大蔵は愕然と顔色を変えた。街道で呼ばわる破れ帷子の百姓姿の男は具足櫃を背負い、槍を揚げて振って見せている。

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 慶長五年九月十五日(陽暦では十月二十一日)の関が原は、稀にみる濃霧で、夜が明けても一向に日が差さず、豆乳を流したような白一色の世界であった。

小心者の癖で、家康は怯えを生ずると爪を噛み続ける癖があり、この時の家康はそうであった。白一色の霧は天地に立ちこめ、敵はおろか見方の軍勢すら見えぬ有様であった。

不安に居たたまれぬ家康は、本陣の陣幕外に出て、あたりの気配を窺がった。到着早々に物見の士は一人も帰って来ない。あるいは濃い霧の中で迷っているのかも知れなかった。

突然、その黒い渦が真っ二ツに割れ、鋒矢の隊形をとった島津勢が姿を現した。

兵数は減り、三、四百ほどとなって隊形は小さくなったが、一糸乱れぬ隊形のまま、速足で家康本陣に迫った。

まるで魔神に出合ったように、家康本陣の側近は恐れ戦いた。誰よりもその恐怖と戦慄が強かったのは家康であろう。家康は床几から突っ立ったまま、足も動かず声も出ず、ただ島津勢を凝視するばかりであった。

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         現代政治の不毛と重ね合わせながら

    「関が原」を再現し、指導者のあるべき姿を示した傑作!!

中高大生推薦

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2009-12-07 (月)

島津奔る 上巻          カルチャー /本・雑誌

池宮彰一郎 著

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島津義弘が、晋州城を制圧し確保するために建造した四川新城である。

「この一戦は、われら島津の生き残りのためだけではない。外征将軍の命運を賭けての一戦である。勝って薩摩島津の武名を天下に挙げよ。敵勢はもう目前に迫っておるぞ」

地頭たちは拳を握り、眦を決して群議所を出て行った。床几代わりの樽に腰を下ろす義弘に、若い豊久が卓子に身を乗り出すように尋ねた。

「伯父後」

「何か」

「御本心をうかがいたいが。勝てるとでごあんそかい」

「勝つ」

義弘は、言下に言い放った。

「敵は三十倍でごあんそ」

「数で勝敗は決らぬ。数の多さは敵の弱点でもある。それに付け入れば勝てる」

豊久も、盛淳・旅庵も、気圧されたように沈黙した。

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        戦国武将の内面に鋭く迫り

   現代の指導者たちにも熱い共感を呼んだ大作。

中高大生推薦

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