最良の出会いをあなたに・・・結婚相手選びの決定版!

7 そうですか。残念ですが妄想確定ですね/投稿者:サボイ さん


8 特佐の使い魔は猫だよ/投稿者:最高のワイン さん


9 猫ですか!自分の見間違いのようですね…しかも2メコア・オーヌってどういう天文学的な確率ですか。いつかは見れる…希望は持てませんね/投稿者:るっくん さん



●もしも兵士舎にフレイ特佐とジェイル特佐がやってきたら、ケツ浮き系ですかね?/投稿者:さるぼぼ さん



1 つまらないスレもたまにはいいんじゃないかっておもってる。ただ、ここまでつまらなくてもいいじゃねえかって思ってる/投稿者:かめお さん




●既出でしたらすみません。ラ・フェの、トレー受け取り口のあたりに魔晶石の仕込まれた小箱?のようなものがあり、たまにパカパカと小箱の引き出しが開く時があるのですが、あれに何かするといいことでもあるんでしょうか?/投稿者:ティア さん



1 ラ・フェのサービスの一環で、小箱の前を通過した人数で抽選しています。引き出しが開いた時にタイミングよくライト(明かりをともす魔法)をかけられたら、引き出しの中から本日のパン3個引換券が特典として出てきます。/投稿者:ほーでん さん



2 所詮、一瞬だから必死こいて狙わなくてもいいと思うよ/投稿者:黒パン さん



3 あれ、どこにも「ライトかけろ」って記載ないよね?ただ箱がおいてあるだけ/投稿者:オカコム さん



4 …ま、ラ・フェのやることですから…/投稿者:ポリフェル さん



●エンチャンターって誰しも生まれた時に決まってしまうので選ぶことができないですよね?もしも、能力の内容決定権を持てるとしたら、あなたはどんな能力を望みますか?/投稿者:興味あります さん



1 やっぱ、時間を操りたいですねぇ〜/投稿者:ディノ さん



2 予知能力…宮廷気術士みたいな/投稿者:ガラーノ さん



3 空を飛ぶ能力…と答えたいが、打ち落とされそうなので/投稿者:バルクリ さん



4 本気で何もいらないと思った。やっぱりね、人間は人間らしく。エンチャンターの殆どが、日常生活に何の役にも立たない能力なのって何かわかる気するもん。そんな便利能力が備わってたら、何の為に身体があるのやら。/投稿者:チョゴマ さん



5 能力が増やせる能力…欲張りすぎですかね?/投稿者:内部文書 さん



6 コミュニケーション能力/投稿者:赤めのタニサニ さん



7 何でもできる能力…なんとなく/投稿者:クラレト さん



8 ズバリ、「のろし」!オレも7色ののろし、出してみてえ。むしろマニアックな感じになっちゃうけど、初めてみたのろしが「水色の霞」だったから感動したんだ…/投稿者:ミーレス最高 さん



9 理想が現実になる能力です/投稿者:ハッピー さん



●もうこの板飽きた。スレ立てる内容も言っても仕方のないことをいつまでも〜。みなさんはどんな感じ?/投稿者:不滅のハゲタカ さん


1 このスレみたいなかんじ/投稿者:緑石 さん


2 さようなら、不滅のハゲタカ。そしてもうくるな/投稿者:プジョル さん



●このたび、念願のグラスリーダーに昇格しました。給金も上がり、自分へのご褒美として遠征用のアーマーを購入しようと思い、ランドリーの店に下見に行ったのですが、予算内で買えるものは「アクトン」と「軟革性」のみ。材質、機能面ではどちらも良さそうなのですが、みなさんでしたらどちらを選択しますか?ランドリーの親父には「どっちもどっち」と言われ、決めかねてます。/投稿者:PRS さん



1 ご昇進、おめでとうございます!自分、グラス兵ですが、リーダーに上がったら何か褒美を…と同じことを考えてました。気持ち、分かりますよ。さて、いらん前おきはこれぐらいにして、アーマーでしたね。自分でしたら、アクトンよりも柔らかいソフトレザーを使った「軟革性」を選ぶと思います。動きやすいし、何より軽い。タンニンを使えば更に耐水性を持たせることもできるすぐれものかと。/投稿者:エリック さん


2 体の動きを邪魔されない、金属などのうるさい音がしないという点では「軟革性」に軍配があがりますね/投稿者:クイン さん


3 おしゃれ感を出そうと思ったら染色可能なアクトンがいいかも。軟革性…確かに機能はいいですが、見た目をこだわる私はデザイン性を求めるなと言わんばんりの軟革〜は勘弁ですね/投稿者:ファニング さん


4 軟革性がいいよ。アクトンは甲冑の下に着るやつだろ。いわば下地のような扱い。ランドリーの親父、適当言いやがって。2つは全然違うだろ/投稿者:マンディー さん


5 みなさん、ありがとうございます。ご意見、参考にさせて頂きます。多分、軟革性にするでしょう/投稿者:PRS さん



●先日、採掘現場にて、初出「アメズス」だったので、次は「タンブルチップ」か「黄土」がくると読んでいたら「茶土」でがっかりでした。この流れだとせめて「サンキャッチャー」ぐらいでてもよさげではありませんか?/投稿者:プロコレ さん


1 全ては時の運できまります/投稿者:MS1578 さん


2 またこの話か/投稿者:そっさらー さん


3 以下のスレ立て禁止☆


@「激寒石」⇒「上級石」採掘などという根拠のないネタ

Aフレイ特佐の使い魔みたという妄想ネタ

B同じく黄金伝書鳩

C自慢や単なる日記


/投稿者:ナルトレイ さん


4 ナルトレイさんに一票/デミトリ さん



●初めてここにきたタルトと申します。これまでラバ隊やライディングホースの騎乗ばかりしており、ミュール演習を受けたことがありませんでした。勿論、上を目指すならばミュール騎乗=基本で、避けては通れない道なのですが、わかっていても、同期や知り合いの話を聞けば聞く程、その難しさに及び腰となり、足が遠のいておりました。


ですが、このたび新たにミュールのニューフェイスがたくさん入ってきたのと、ミュール入門なる実技演習が行われるとの事。チャレンジしてこようと思ってます。


はっきり言って、騎乗センスゼロだといっても過言ではない自分ですが、ミュールの騎乗の際、どこに気をつければいいのか、乗れたら面白いのかなど、そのへん詳しくお願いします。同期のミュール乗りはみんな「楽しい」と薦めており、大人気なようなので非常に気になるのです/投稿者:タルト さん



1 文章長すぎ。次からはも少しかんがえようね/投稿者:115 さん


2 ミュールは乗りこなせると、その圧倒的なスピード感に酔いしれます。よって爽快。逆にミュールに馬鹿にされると、いいようにあしらわれてかなり「酔」います。…なので賛否両論かな/投稿者:ロン さん


3 えーっと、とりあえず、ミュールよりも偉いんだという気持ちでふんぞりかえっててください。展開によってはいきなり振り落とされることもありますが、嫌わないでください/投稿者:沈黙の番人 さん


4 ヘッドギアの魔晶石がエメラルドグリーンに光ったらチャンス。ミュールが乗り手を認めてスピードあげてくれるっていうしるしです/投稿者:シャーマンの姉 さん


5 ラバみたいにのらりくらり、物音一つ立てずに歩く時がありますが、寝ないでください。集中を切らさないように。/投稿者:舐められたらオワリ さん


6 115さん、次回から文章、短くするように心がけます。ロンさん、スピード感が爽快なのですね、がんばります。沈黙の番人さん、気持ちを大きくもって挑みます。シャーマンの姉さん、ヘッドギアの石ですね。わかりました!気をつけてみてみます。舐められたらオワリさん、寝ないようにします。みなさん、ありがとうございました/投稿者:タルト さん



●南別館のつくりがよくわかりません!この間も、講義を受けに別室へ移動中、どこをどう間違ったのか、気がついたらグラン・トリアノンに出てしまい、エリートガードに違反切符を切られた揚句、1クールの罰当番まで食らいました。あのラ・フェのある回廊と並行して走ってる連絡通路と兵士舎が同じ筋にあるって合ってますよね…?近道してるつもりなんですが/投稿者:ミキサー さん


1 勘違いも甚だしいぞ!/北区画のハゲタカ さん


2 ここでスレ立てるような内容じゃありませんね。掲示板に貼り出してある地図みてください/投稿者:おっとー さん


3 またかよ。通報しました/投稿者:永遠にハゲタカ さん


4 >3、どうぞご自由に好きなだけ/北区画のハゲタカ さん


5 ↑の人達、そんなレス書くんなら、質問に答えてあげたらいいんじゃない。

南別館は、似たような通路が続いたり並行に走っていたりで確かに迷いやすいつくりをしていると思いますよ。私は、兵士舎に入ったばかりの時、地図を羊皮紙に模写したものを常に携帯してました。

因みに、ラ・フェと兵士舎は同筋にはありません。2つ筋が離れてます。/投稿者:ばう さん




●兵士舎に上がったばかりでこういうことを言うのはなんなんですけど、なんか人の数がすごくて。南別館の連絡通路を歩いてるだけで、上官から同期から昼夜問わずすれ違う。みんな挨拶してくるけど、所詮、他人の集団なんだし、いちいち返す必要ないんじゃないの?うざいよ。オレはいつもシカトだけど。みんなもそう思いますよね?/投稿者:ララ さん



1 基本の挨拶もできないの?そんなんじゃ、永久にシルトどまりだよ/投稿者:ハルビナール さん


2 思うかって。あなた、異常です/投稿者:タルアカイ さん


3 いいんじゃない?しなくても。あなたが一人で生きていけるなら/投稿者:ノルスタイ さん


4 別にあなたがそう思うのは勝手ですが、それを「そう思いますよね?」とここの板の人達に賛同を求める。そっちの方がうざいよ/投稿者:アモーン さん


5 挨拶は人と人との潤滑油です。挨拶されたら返す⇒常識ですよ?顔見知りになると思いますし、挨拶するぐらいたいしたことじゃないんじゃないですか/投稿者:コウ さん




●フレイ特佐に浮いた噂一つないのは、特佐が実は女性ではなく男性に好色を示すのだと、かなり近いスジから聞いたのですが、本当ですか?

それならば、名門貴族がこぞって持ち込む縁談話を片っ端から断っているのも納得です。いずれも才色兼備の美女揃いと聞きましたから、それを右から左へと流すなど有り得ないからです/投稿者:ジョー・エッカード さん


1 ただの噂に決まってるじゃありませんか。フレイ特佐がかっこよすぎて完璧だからそんな噂が広がるんです。どうせネタ元は、嫉妬と妬みでしょう/投稿者:オスロ さん


2 男好きと思う人はそう思ってればいいんじゃないですかね。ここで質問したところで本人が答える訳じゃないし、かなり近いスジから聞いたということですが、俺の知り合いは前歴、大陸行脚の道中、正真正銘の男色家、ユウシ・チエボルに言い寄られて辟易したという話を本人自ら暴露されたのを聞いたそうですよ/投稿者:デル・トロ さん


3 まさしく悪質な噂に過ぎませんね。フレイ特佐は、暦中の殆ど城外におられるジェイル特佐と違って、城内にほぼ縛り付けられている節があるので、何かと目立ってしまい、噂の的になりやすいだけなのでしょう。


本当はお近づきになりたいと卑しげな妄想を膨らませているくせに、素直にいう可愛げすらない。悔しかったら、この私のようにロードのお二人に貢物でもすればいいのです/投稿者:マイロ さん


4 別に近くで会えるわけでもないのに、男が好きだろうが女が好きだろうが関係ないと思いますが?/投稿者:ケトステ さん





by つづらりんこ at 23:41

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

「王子」

誰かが暗闇の中から呼んでいる。僕はその声にぎょっとした。

「あっちへ行け!」

「王子」

ガーラントがまた呼んだ。

「ジェイが王子に食べ物をもらいたくてうずうずしてらっしゃいますぞ。いいご主人になると約束したでしょう?動物に愛されて信用されたなら、それに対して責任を負わなきゃいけません」

せっかく一人で楽しくやってるのに、いつもいつも僕の邪魔をする、うるさいガーラント。

「王子が今、掘り出されたものは何ですか?」

ガーラントはもっとよく見ようとして茂みの傍から頭を突き出した。

その時、僕も土に埋まっているものを見た。

骨だ。

毛皮はどこに行ったんだろう。

柔らかい白い耳は?

僕は説明しようとした。

「虎だよ。この間の晩、こっそりポーチを抜け出して庭に出たんだ。そしたら、暗闇の中からこの人喰い虎が現れて僕を食べようとしたんだ。僕はギリギリのところでやっつけた」

沈黙。

それは彼が僕を信じてない証拠だ。

僕には人の心の底が見える。

「王子。それは虎の骸骨なんかじゃないですぞ。毛皮が少し残ってるでしょう?ルビー皇女が飼っていた仔猫じゃないですか。どうして彼女の仔猫を殺したりするのですか」

「違う!」僕は喚いた。

「仔猫なんか殺さなかった!そんなことするもんか。僕は仔猫が好きなんだ。こいつはあんまり大きくないけど虎なんだ。ここに僕の生まれる前から埋まっていた古い骨だよ」

でもやっぱりそれは仔猫の骨だった。

ガーラントに見られないように、急いで眼をこすった。

「王子、ジェイが待ちくたびれてますぞ」

疲れた。すごく疲れた。

「行くよ」

辺りはすっかり霧に包まれている。

僕はよろよろと歩きながら、心の中で父上を呼んでいた。

僕が必要な時に来てくれない。呼んでも返事をしてくれない。

考えていたらやっと答えが見つかった。

誰も僕を愛することはできないんだ。僕はここの人間じゃないし、あっちの人間でもないからだ。僕には居場所がないんだ。



「う…」

寝返りをうった瞬間、シーツがベッドから落ちてライナーは目を覚ました。

「随分、うなされてましたね」

ベッドの傍らのサイドテーブルに置かれた聖書のページを繰りながら、ルナンが言った。

ライナーは室内を見回し、やがてやっと現実に戻ってこれたとでもいうように、大きく息を吐き出した。

「…喉が乾いたな」

言いながら自分の右手の引っかき傷を見た。

右の甲から肘にかけて、血の斑点がところどころ白い肌から浮き出ている。

ルナンはシーツをベッドに載せると、クリスタル製のグラスをライナーの左手に持たせた。

ライナーは中身も確認せずに一気に飲み干す。

「体がバラバラになったみたいな感覚がする」

「痛みがわかるのですか」

ルナンは聖書を閉じると、彼の無残な傷を見ながら言った。

「全然。――…お前はずっとここにいたのか?」

「ずっと、という訳ではありませんが」

「よく飽きないものだな」

ライナーは半身を起こすと、ヘッドボードにもたれかかった。

「……僕は昔の夢を見てた。もうずっと前の」

「そうですか」

「夢の中にお前はいなかった」

ルナンは宙を見つめて話すライナーの瞳がどんよりと曇っているのに気付いた。

今の彼は、人に向かって話をしている訳ではない。

自分自身に問いかけ、それに自分が返事をしているだけで、そこに何の意味も何かを生み出すこともないのだ。

「どうしてなんだろう。お前は僕が11の時から城に出入りしていたのに」

「王子は9歳でしたよ」

「ずっと11になるのを待ち続けていたんだ。こんなに待ったんだから8の次は11だ」

ルナンはもの哀しい表情を浮かべ、目を細めた。

「…今、王子はご自分と会話をしてらっしゃいますね。以前から感じていたことですが、人の言うことを何でもご自分に向かって言い直してらっしゃる。ですから、言葉を通じて人と接近することはなかったはずです。話し声として聴こえてくるのはご自分の声だけ。それは、心の内側にお独りで隔離され、孤立させられるようなものでしょう。溺死してしまいそうな程の寂しさを味わってきた。―…そうではないですか?」

「もの心ついた頃から、悪い種だと決め付けられて、何年も何年も【邪悪だ】【消えてしまえ】と言われ続けて……他者との相互理解やコミュニケーションを理解しようなんて気持ちはとっくに萎えたよ。世界は平面的でしかなく、本物の人間は自分だけとしか感じられない。地獄のような苦しみなのに、他の選択肢も解放されることもなかったからフラストレーションは常にタンクに満タンの状態だ。それが僕にとっての「永遠」さ。どこまでいっても、空虚で満たされることもない。会話を楽しむフリはできても、相手と一緒に楽しむという感覚は全くわからない。自己と他者が同時に存在するのもさっぱりだ」

「それでは、どこで意味が分からなくなるのか、どの単語からなのか、これからは話してください」

「どうしてだ」

「そうすることによって、文章の前後関係や誰と誰がどう関係しているとか、王子がそれまで気にも留めていなかったようなことが見えてくると思うからですよ。能力の向上という言葉を?」

「ああ、はるか昔、夢見ることさえなくなった【言葉】だよ」

「物事の繰り返しは理解と洞察を高めます。潜在意識下にあるものを前意識へ、それを更にはっきりとした自覚ある意識へ「はしご」を上っていくのです。王子は潜在意識の倉庫から取り出さなくてはならない部分がたくさん眠っているのですよ」

「光が見えるということ?」

「失ったものを取り戻す作業だとも言えますね。心の闇と沈黙という長いトンネルから脱出するのです」

ルナンの言葉は、ライナーにとっては新鮮な感じがしたが、同時に恐ろしいとも感じていた。ある感覚が波のように押し寄せてくる。

首筋がゾクゾクしてきて、それがちょうど地震の地割れのような勢いで、体中の組織と神経に広がっていくのだ。真っ暗な底なしの無の世界。

それが死神のように近づいてくる。

うねりのような津波の音が耳の中で、繰り返し聴こえてくる。

今に「大波」という名の「死」が襲ってくる。それは無の世界で僕を呑み込みにくるのだ。

僕は17暦たった今、両腕で自分の身体を抱えるようにして座り、「大波」の襲撃を待った。その正体が「感情」だということももう知っている。

「抱きしめてもいいですか」

怪物の主が言う。僕は激しい強迫観念と闘いながら決意を固めた。

さあ、いつでもくるがいい!

首筋に寒気が走り始めた。

僕は全身をつかまれてしまう前に、心の中で何度も呪文のように繰り返した。

「大丈夫、戻ってこられる。大丈夫…」

体は、大地震の時に横揺れする建物のようにぐらぐらと震え出す。

体中の筋肉という筋肉が、僕の命を搾り出してしまおうとするように収縮する。

やっと、その収縮が収まると、ついに「大波」の衝撃がぶつかってくる。

何度も何度も。悲鳴が喉まで出そうになるが、声にならない。

叫びは決して外に出ていくことはできずに、押し戻されては爆発し、心の中で反響する。

意識がふっと遠のきそうになると同時に、またあの嫌なぐにゃりとする感覚が訪れる。

心臓のあたりから生暖かい光が洪水のように溢れ、姿も、意識も、自己を構成する全ての組織が組み替えられるような、腸がねじれるような感じ。

「息をして」

合間にふと声が聞こえた。

僕は深く息を吸い、一定のリズムで深呼吸を続ける。

それで何とか襲撃を防ぐことが出来た。

だが、「大波」はまだ去ってはいなかった。

再び、僕を呑み込もうとする。もう一度、押し留めるんだ。

僕はまた深呼吸を始める。少しの間、波が這い上がって苦しいのを耐え、何度か呼吸するのがやっとで、全部の波を止めることはできない。

一つの波が行ってしまうと苦しさが引く。

「息をして」

声がする。今度は前よりももっと長く休むことができた。

僕は心の中で竪琴の音色を思い浮かべた。

耳を刺すような沈黙の中に、柔らかな音が流れ出す。

そこへ何の前ぶれもなく、また次の波がくる。

だが、前より小さい波だった。体の震えも先程のような痙攣のようなものではなく、小刻みなものへ変わっていく。

そこへまた敵がやってきた。

僕ははしごを必死で掴みながらその場で耐えようと踏ん張った。

横木は襲撃のたびに、深い底なしの無の闇にひきずり落とされていく。

だが、僕には選択肢があるはずだ。

このまま「大波」にうちのめされるか、自分から飛び込んでいくか。

無の世界に身を委ねれば、それでもう襲撃を終わりにすることができるはずだ。

僕は、飛び込んだ。




ルナンは、途中で妖精に変化したライナーが、溢れ出した感情の波をコントロールすることも処理することも出来ずに、心の内側で闘ってるのが痛いぐらいに伝わってきて、それを見ているのが辛かった。

抱きしめている間中ライナーは、体を震わせ、歯をがちがちと鳴らしながら、時折、憑かれたように言葉を発し続けていた。

「感情というものを理解したい。自分の体の感覚に結びつけることができない。イメージと定義が分かっていても、心の中の地図がバラバラに破れているから、人がどう感じて動くのかとか、心の動きを読み取るなど神業としか思えない」

人が生まれつき、自己表現や話し言葉を一瞬の内にできる能力を兼ね備えている。

それなのに。

ルナンは規則正しく呼吸をするライナーの髪を撫でた。

( …どうしたら、こんな風に人を形成するものを歪められてしまうのだろうか )


――何とかしてあげたいと思った。



俺が以前、テュルソスに侵されていた感じと似ている。

あんな苦しい思いをしてるんだろうか。


触れられるのを極端に嫌がっていたのは、身体が問答無用で拒絶反応を起こすから。

多分、今も拷問を受けているとしか思えないんだろう。


だけど。


ルナンは涙に濡れた頬を指で軽く触れた。

その途端、跳ね上がるような勢いで顔を上に上げ、強く力のこもった瞳でルナンを見上げてきた。

「…何のため?…これは一体、何のためなんだよ!」

どうしてこんなことをしたいと思わなくちゃならないんだ。

誰が触ろうと構わないじゃないか、と心の中で声がする。

どっちにしても、この体は自分にくっついてるだけのものであって、自分はここにはいないのだから。

いや、違う!間違ってる!

もう一人の声がする。

これは僕だ。この体全部が僕の自己でアイデンティティーなんだ。

答えが欲しい。正確で自分が納得できるだけの答えが。



だけど答えなんかどこにもなかった。



夜は更にふけ、夜空には星が瞬き、紺と紫の柔らかい色合いが優しく月を縁取っていた。その中に包み込まれるようにゆっくり航行するランドシップの鈍色が神秘的に輝いている。サーキュラーの針が3刻程動いた頃、ライナーはようやく落ち着きを取り戻しつつあった。額から噴出して止まらなかった汗は止まり、微熱を帯びていた身体は正常な温度まで回復していた。

目を堅く閉じ、微動だにしなかった身体は、力が抜けてリラックスしているようにも思えた。ルナンは、スローモーションのようなその様子をずっと腕の中で見ていた。

「以前、今の姿の方が本物だと言いましたが、覚えておいでですか?」

しばらくして、ルナンは穏やかな口調で話しかけた。

「―…覚えてるさ。いつからか自覚はない。だけど、昼夜問わず変化してしまうようになったのは天変地異の後…彗星が降りてきてからのような気がする。エンチャンターは失われ、雑音に悩まされることはないけど、もう一つの意識が混在していて落ち着かない。感度が良くなっているのか敏感に反応しているのか、温度や感触、周囲の音がはっきり輪郭を伴って目の前に現れている。それは、何とも形容し難いおかしな感触だ」

「光が近づいてきている証拠です」

ライナーはぎゅっと手を堅く握ると、ゆっくり目を開けた。

「…僕は…もう犠牲者になりたくない」

「なりませんよ。貴方はこれまで、間違った情報処理の仕方であらゆることが自己完結された世界で生きてきた。これからは、闇のトンネルを抜けて、光のアーチをくぐると「犠牲」という名の体現者であった何かが見えてきます。その手当てをしてやるだけはいけないのです。自分の人生においてそういう部分があったのだと怒りを燃やして立ち向かわないといけません」

「何のために?」

「前進するために」

「じゃあ、常に湧き上がってくる動揺に負けてしまわないようにするにはどうしたらいいのか考えないと。僕は親しさには息苦しく感じるし、攻められているようにも思える。触れられることには恐怖を感じ、感情のこもった話し方には傷つけられる。周りは保証を表しているつもりでも、僕にしてみれば自分自身のやすらぎを完全に傷つけられるだけだからだ。僕にとってのやすらぎとは、距離と、次にどうなるかわかっている…パターン化、儀式化されたものなんだ。でも、世の中のあらゆることは殆ど固定されていたり、一定だったりすることがない。常に動き、流動的で、スピードがめまぐるしくて息切れする」



辺りが夕闇に包まれた頃、小さな手が鍵のかかったテラスをノックする。

まだ背丈がバルコニーの手摺にも満たない小さな子供が、どしゃぶりの雨の中、吹きさらしになっている。

『お前は悪魔の申し子だから入ることはならん』

テラスの中から野太い声がする。

『助けが入らぬよう、監視の目を怠るでないぞ』

『ハッ、ムーングラム大神官殿』

トン、トン。

子供の手がもう一度ノックする。

『テラスを叩くな』

『邪悪な種は黒い雨に打たれればよい』

「邪悪な種」は扉から離れ、バルコニーの隅に座り込んだ。



「…貴方は以前、ふれあいについて何の社会性も感情もありはしないとおっしゃいました。それは貴方が普段から、自分の体からずっと離れた場所にいて、現実の世界から逃げ回ってきたからです。貴方にとってはただ死んでいるようでしかない『現実』という概念から。ですから、身体の上では部分的にしか自己を感じ取ることができないでいる。痛みを感じないのはそのせいでしょう。…知ってますか?生き物は生きる為に痛みを感じるようになったということを」

「生きる為」

「痛みを感じないとすぐに死んでしまうでしょう?そうならないように神がお与えになったものなんです」

「…神が…」

ライナーは、新しく示された定義や概念を理解しようと全神経を張り巡らそうとして、消耗し切っていた。極度の緊張とエネルギーの減少で、今にも意識を失いそうになる。

「自己と他者において共通の定義というものがあります」

ルナンは、夢の中で語りかけるよう、ゆっくりとライナーの身体をベッドに横たえた。

身体は離さず、厳しい試練を与えるようだが、これは新しい人格形成への一歩になるはずと信じて突き進むことにしたのだ。

「他人の中にやすらぎと安全を見出し、他者をも支えるというのは、少しもおかしなことじゃないのですよ」

ルナンの説明は、物に喩える分かり易いものだった。

そのおかげで、新しい概念はじんわりとライナーの中に浸透していくのが実感できた。

「…筋が通らないことでもない。ようやく分かった気がするよ。なぜ、人が互いに振り向き合い、支え合うのか」

僕は、これまでの人生を振り返ってみた。

もしこれをもっと早く知ることができていたならば、と叫び出したい気分だった。

「もし、できたらでいいのですが」

その声を聴いた途端、ライナーは身体が強張るのを感じた。

「私の手に触れますか」

吐き気がこみ上げてくる。

この人物は一体何を求めているのだろう。

ライナーはパニックに襲われながら考えた。

訳が分からない。こいつは僕の味方じゃなかったのか?

少なくとも彗星の生贄の役目は果たしたはずだ。

それともお役ご免で敵になったのか?

僕は色々なことを告白した。そうして、剥き出しの世界を見せてきた。

それなのになぜ、他人に触りたいなどと思わないといけないのか。

自分のかつての戦略と、新しいルールが内側で激しくせめぎ合っている。

ルナンは、無言で待っていた。

多分、僕のこうした葛藤を知っていたに違いない。

僕は怖かった。

自分が剥き出しになっているのに、どうしたいかという自分の気持ちがどこにも見つからない。フリをしろ、演技をするんだ。でも出来なかった。

何の感情もないままでは、自分の方から触れるということに到底耐えられそうになかったからだ。差し伸べられた手は、己の不充分さを嘲笑うかのようだった。

だが、ルナンは僕の恐怖を嘲ったり、軽く扱ったりはしなかった。

僕を無理やり押し出そうとすることも、感情を強制するようなこともしなかった。

僕の本来あるがままの感情が全うできるよう、そっとしておいてくれたのだ。


絶望的な気持ちになる。

これまで社会的な接触というものには必ず「必要ならば」「決まりだから」等の、任務の一環のような格式めいた儀式として受け容れることは出来ても、そこに自己は存在しなかった。だけど、それに「自分の感情をのせて」「自分の欲求で」というと話は別だった。

それはあまりにも身に迫りすぎてくることだからだ。

僕はもう一度目の前の人物を見上げた。

何度も顔と、顔から結びついている首と肩に視線をいったりきたりさせている内に、どう考えても有害なものには思えなくなっていた。



敵じゃない。


ふいに頭に閃いた直感は何故か正しい判断に感じられた。


僕はアイオライトの瞳を見つめた。

それから今度は肩のあたりを見て、そこから伸びる長くて綺麗な指を見た。

そしてその手に自分の手を重ね合わせた。

しばらく、重ね合わせた手をじっと見ていた。

自分の手が隠れてしまいそうな程、大きくてしなやかな手だった。

それからルナンを見た。

彼は優しくほほ笑んでいた。

僕は慌てて手を引っ込めると、ただの腕として触れたのではなく、僕は君を信用しているしるしだという気持ちを込めた接触を、触れ合いができたということに歓喜していた。



触れ合いとは侵食や虐待などではなかった。

それは、さまざまな理由で人と人との間に行われるものなのだ。

感情という言葉に託された触れ合いとは、未来に向かって開かれた輝かしい光の扉への架け橋である。


「ルナン」

ライナーは初対面で名前を呼ぶように言った。

ルナンは自分を見上げる瞳を静かに見つめた。

「初めて眠りたいって…」

ルナンは身体を離すと、囁きに近い声で答えた。



「ゆっくりお休み」




ランドシップの中で私室として使っている部屋に戻ってくると、ケセランがどこからともなく現れ、ルナンの腕に飛び込んできた。

「パサランは偵察か?」

『はい、ご主人様』

ルナンは肩のリングジョイントを整えながら、訴えるような目をしているケセランの視線を敢えて避けるように、傍らの猫脚の椅子の上に降ろした。

その時、小窓から吹き込む風が動きを止めた――その刹那、ルナンの身体を取り囲む影が目標を定めた瞬間、それ自体に雪崩のような殺意がのしかかり、一瞬の間に灰と化した。彼の絶対防御の刃によるものである。

「俺の壁の波動も分からないとは、相当位の低い連中だな」

それより、何の用だ――とは、もう一つ、彼の壁の影響を全く受けない影に向かって発した言葉である。

「イライラしておる。王子に振り回されっぱなしで自分で自分が嫌になっとるのじゃろう」

エマは薄霧のような煙と共に姿を現したと思うと、スツールに腰を降ろした。

「何が言いたいんだ?バアさん」

「フン、年長者を敬う礼節をわきまえん輩に言うことなどないわ」

エマは長い樫の木でできたような杖を横に立てかけると、懐から黒水晶を取り出した。

膝の上に載せ、しわくちゃの手を擦りあわせながら、不気味な笑みを浮かべている。

「よくそんな事が言えたものだ。人の許可なく勝手に部屋に入り込んでおいて」

「お前さんはこのワシに貸しがあるのじゃよ。そんな生意気な口をきいとる場合ではないわ。ワシも暇ではないのじゃよ」

ルナンは、エマが水晶をイジる傍ら、右手の人差し指でワイン棚を指すのを見ると、はいはい、と言わんばかりにグラスとワインを持ってきた。

スツールの隣のサイドテーブルにグラスを置くと、ワインを注ぐ。

エマは低い声でああ、とかうむ、とかごにょごにょ呟きながらワインを豪快に飲んだ。

「実は暇でしょ、あなた」

ルナンは椅子の上で丸くなるケセランを抱き上げて自分の膝の上に載せると、その椅子に座り直した。

ケセランが一瞬、目を開けたが、ルナンに頭を撫でられて目を閉じる。

「上定の件…右の指揮下にある魔導部隊、護符…ゲート…どれでもいいから知ってることをしゃべってから消えてくれ」

「さあて。ワシはしゃべりたいことしか語れぬ口しか持っておらんからの」

言いながら、水晶に表れた光の並びを見て、ほう、と呟く。

「…彗星のことは?あいつは災いになるのか?」

エマは水晶から目を離した。

「何じゃ、憎しみに駆られておるのか?」

「…いや…」

「惚れたか」

ルナンはエマを無言で睨みつけた。

エマはしわがれた声で空気の抜けるような笑い声をあげた。

「そもそも、あやつの首と引き換えにバンダー夫妻の魂が犠牲になったのじゃからな。憎むなという方が無理かもしれん」

ルナンは、正直、自分の気持ちが分からないと思った。

妖精のような姿になるまではあの性格に辟易していたのに、鎧を脱ぎ捨てた姿は、問答無用で、人にあらゆる概念を捨てさせる威力がある。

不純物の入っていないクリスタルのような輝き。別に俺じゃなくても…。

「自制心をギリギリのところで保っておるようじゃの」

エマに心の底を見透かされるような発言をされ、ムッとする。

by つづらりんこ at 01:47

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

ランドシップの窓からは、ちょうど沈んでゆく夕日が見えるところだった。

空は青と紫のもやに包まれ、その下には広大な土地が広がっている。

食事を終えた彼らはそれぞれ思い思いの場所で過ごしていた。

ルナンは見張り台の上から目検でも索敵をかけようと周囲を探り、ライナーは天井の高い部屋のカウチに寝転がり、仮眠をとっていた。

その時、突然船首が傾き、室内の家具が斜めにかしいだ。

ライナーはカウチの端に肘をぶつけて目を覚ますと、立ち上がりかけて反対側に床が傾き、バランスを崩しかける。

足元をふらつかせながらブリッジまでくると、パネルの計器を見ているルナンの背中に声をかけた。

「何が起こったんだ」

「コントロール計を読んだ限りでは、アスタルの手の者の仕業らしいですね。こんなデカいものが防御壁もロクに張らずに浮かんでるのですからある程度は予想はしてましたが、これは思った以上に数が多い…」

ライナーは顔色を変えた。

「防御壁もロクにって、結界網を敷いてないってことか」

ルナンはまあそういう言い方もありますね、と受ける。

「前にも言いましたように、シャーマンもソーサラーも右が持っていってますからね。…集結して右が単独で率いているとは考えられませんが、砲撃されたらこの艇はアウトということです」

「お前の絶対防御はどうなんだよ」

「あれには天井がありません。よって無傷でいられるのは側面だけ…といっても、私を中心に張りめぐらせてるものなので、常に壁が動くことも事実です」

「それじゃアテにするなと言われてるようなものじゃないか」

ルナンは前方を見るようにうながした。

「ですからこの艇が沈まぬよう、全ての攻撃を完全に防ぐ必要があります。ご覧なさい、肉眼でも見えるでしょう。相当数の小型艇が隊列を成しているのを。色は朱…艶やかなものだ。たかだか正体不明の艇の調査におおげさとも言える程のバトルを敷いている。国家間で紛争でも始めるつもりですかね?それともアスタルは兵隊の数が有り余ってるって言いたいのか」

ライナーは夕日を更に赤く染めるバトルを見ながら鼻白んだ。

「見せつけてるのさ。逆らうな、服従しろとね。この僕の前で許し難いよ」

「手伝ってくれますか」

格納庫へはその先の扉から行けます、と付け加える。

「いいだろう」

ライナーは前方を鋭く見据えたまま短く答えた。

甲板の手摺に片脚を引っ掛けると、肩から外套を外して宙へ放り、自身の身体もしなやかに舞い上がった。

( …レージエント( 浮遊 )を会得している…!フローターいらずってか、全く… )

ルナンは心の中で感心しながら、雲の隙間に自分の身体を滑り込ませた。

程なく、凄まじい悲鳴が黒山の間から上がる。

「隊列を崩すな!確かに人型が見えたんだろうな」

アスタルのバナーの一つをまとめる隊長が大声で叫んだ。

「ハッ!伝令が前のバナーから回ってきたので間違いないです!フローターなどではありません」

隊長が眉間に皺を寄せながら頷いた。

「ということは人型はレージエントの心得があるということだな。小型艇に乗っている我らの方が圧倒的に有利だ。人型は必ず生け捕るんだ!殺すなよ」

「ハッ」

「後続にも伝令を伝えておけよ。間合いを詰め、一気に周囲を固めて補足だ。行くぞ!」

隊長の掛け声で周囲のバナーが一斉に隊列を組み替えた。

その彼らのターゲットは左右に別れるように展開していた。

ライナーは朱色の小型艇を一つ奪っており、片脚をスロットルにかけて速度を上げていく。背中からライアー・オブ・ビルディングという、音の出ない竪琴を引き抜くと弦に指をからませる。空気を切り裂く音にかき消される程の小さな声で呟くと、弦を勢いよく弾いた。

その瞬間、重い圧力のようなものが周囲に充満し、前方のバナーから次々と小型艇が浮力を失って落下していく。

操縦者に呪殺技をかけ、喉を圧迫させているのである。

「腑抜けた奴らだ。それでもアスタルの選悦部隊か」

ライナーはつまらなそうに言うと、向かってくる小型艇の小隊兵を竪琴でなぎ払う。

竪琴の弓なりに沿った部分が鋭い刃になっているのだ。

「ルナンの奴はちゃんと働いてるんだろうな」

独り言を呟くと、掛け声を上げながら向かってくる小型艇の操者の動きを封じていく。

殆どが血で手を汚すことなく、呪殺によるものである。

「隊長、駄目です!人型は妙な術の心得がある様子で、近づく者を片っ端から艇から降り下ろしております」

「どうしてそんなことが分かるのだ!」

「目視しました」

「お前は目視できる程距離を詰めて…それで無事だったのか」

隊長は訝しげに兵士を見た。

「自分は二重(ふたえ)のエンチャンターを持っておりますゆえ…。ひとつ身を目くらましに置いてきました」

「なるほど…策を変えねばならんということか」

「このままではA班、B班、共に全滅です」

「乱れ雲の向こう側はどうなっている?戦果の報告が上がってきておらぬようだが」

「分かりません…ですが、一人が術師だったということはもう一人もあるいは…」

「相手の情報がないに等しいというのも厳しいな。よし、ここは一旦引いてバトルを立て直す。草の力を借りて、力の心眼を確かめるのだ」

隊長は撤退の命を下す為にのろしをあげさせた。

「のろしを3本、薄桃の煙に巻く」

バナーのリーダーが次々と伝令を後続に回していく。

その直後、雲の反対側で強烈な閃光が瞬くと、ぽっと黒い稲妻が空を切り裂いた。

雨粒のように黒い血が噴出し、操者を失った艇が天の落し物のような勢いで雲の切れ目から落下していく。

バトルの総指揮をとっていたリーダーは思わず溜息を漏らした。

「…遅かったか、向こうはもう駄目だ」

踵を返して残存兵に後退を命じる。

その時、ルナンは失速し、落下していく小型艇の回収作業を始めていた。

奪った艇の滑車に取り付けられている飛晶石を少し削り、浮力を持たせて落下していく艇を宙に繋ぎ止めておく。


「ケセラン、パサラン、後はお前らに任せていいか」

ルナンは指の増えた二匹に声をかけた。

主人の命にぴくんと耳を立て、『お任せください』と返事をした使い魔達は、薄霧のような分身の部下に、小型艇の回収作業を命じた。




ライナーがランドシップの甲板に小型艇を乗りつけた時には、既に日は暮れ、夜のとばりが顔を出そうとしていた。

流れ落ちる汗を手の甲でぬぐいながら近づいてくる彼に、ルナンは奪取してきたフローターの状態を確認しながら声をかけた。

「お見事でした。さすがにガーラントの直伝とあって、鮮やかなものでしたよ」

ライナーは当然のことを、と言いたげな視線をルナンに投げてよこした。

「あんな俗物どもにやられてたまるか」

「わざわざ私が武器を作るまでもなかったようですね」

「当たり前だ。お前のイリュージョンと僕の呪殺では得意分野が違うだろ。人の内側に働きかけて体調不良を即進させる効果の多い呪殺と、人の外側から働きかけて外的に負傷させる効果が殆どである幻殺は、属性ではなじみやすいともいえるが、攻撃に関していえばエネルギーのプラスとマイナス、物事の右と左、つまり真逆をいってる。自分と正反対の性質を持つ武器を作るなんてよく言えたものだ。作成したところで、僕の波動をはじき返しかねないぞ」

ルナンはしばらく言葉をためるような間をとっておいた後、途中までフローターの数を数えていた指の動きを中断した。

「…よくお分かりになる。ご自分の能力の性質を正確に見極めていらっしゃる事実には正直驚きです。――そうですね、王子の言われた通り、正反対の性質を持つ武器を作るのは得意ではありませんね。むしろ、反発する性質を無意識の内に持たせてしまう危険が伴う可能性の方がずっと高い。それを考えると、王子がご自身の【愛刀】をお使いになるのが一番安全で確実でしょう」

ライナーは無言でルナンの眼を見た。

その深みのあるアイオライトの瞳に揺れは見当たらない。

アスタル軍の調査隊とやりあって、何か期待以上の収穫を得られたかと確信する。

「それで?何を見つけたんだよ」

主語のないライナーの物言いに、一瞬「?」マークを頭上に出したルナンだったが、すぐに閃くものがあった。

「ま、ご覧の通り、ただでこんなにフローターが」

片手を広げて朱色のフローターの列を指す。

「黒に塗り直して使う気か。乗り手がいないじゃないか」

「じきに合流できますよ。さしあたってガーラントとグレースの隊、それからロード・ミーレスも付近にいるらしいです。先程、我々に攻撃を仕掛けてきたアスタルのバナーの中にレージエントを会得している者は一人もいませんでした。ということは、ハイレベルの隊ではない。地図が変わってしまった大陸の調査と…あとは護符か…ゲートか…まあそんなところでしょうね。もしかするとエルリックのバカげた上定への召集の呼びかけも、それなりに効力を発揮しているのかもしれません。アンダーソン憲章に則り、新たな条定が制定されれば、そこで宣戦布告をするのが正式だろうと手順を踏むはずです。そんなまどろっこしいことをせずに一気に地上を攻め落とせない理由はただ一つ。彼ら魔族が未知の大陸に対して恐れを抱いているに他ならない。我ら地上の者が天界に浮かぶ【闇】の地を恐れているように、彼らも同様の想いを抱いているのです。実際、あちこちに謎のゲートが出現し、その底の見えないブラックホールからは異形の魔物が吐き出されている。天変地異の影響で地形の変化や天候の変化が見られている。それから大陸全土で大規模な結界が張り巡らされている。こんなに一度に大質量な魔晶石の波動がぶつかり合ったらどうなるか…。小さい町や都市国家程度で、おのおの距離が離れていれば問題ないでしょうが、近いところだと…」

「何だよ、どうなるってんだよ」

ルナンは懐からカノーヴァを取り出し、ブーツのかかとに着火石を擦って火をつけた。

「どうなるか分かりません。よろしくない感じになりそうだと想像することはできますがね。あとは、第一アクセラータや第二アクセラータのいる本隊はここら辺りにはいないということ…それぐらいですかね。分かったことと言えば」

「たいした情報収集力じゃないな、それでも影といえるのか」

ライナーの不満げなもの言いにルナンは「成果の多少はこの状況下ならいた仕方ないこととお考えください」と冷ややかに返す。

「フン…ところであれは何だよ?奪ってきたアスタルの兵隊の私物か?朱色に燕尾の巾着の並びが気持ち悪いんだよ」

ライナーは発着口に停めてある朱色のフローターの方に顎をしゃくった。

フローターのスロットル脇に燕尾色の巾着袋がぶら下がっている。

( 俺が知るか )と心の中でルナンは毒づいた。

「私が知る訳がありません」

「さっきからずっと気になってたんだ。どうして朱色に燕尾なのかってね。有り得ない組み合わせだ」

( じゃあ、どうにかすりゃあいいじゃないか )

「では、どかすか王子の視界の枠外に移動させるかすれば問題解決ですね」

「仮定の話をするな」

ライナーは両腕を組んだまま口を閉じた。

その態度を命令と受け取ったルナンは、心の中で( へいへい )と軽口を叩きながら黙って巾着をフローターから除けた。

勿論、心の声が相手のエンチャンターによって駄々漏れしている事実を承知の上での事である。

ライナーは遮断機は降りっぱなしだと言っていたが、強烈な思念は有無を言わさず入り込んでくるという。

それなら俺の思念はどうだ。

常日頃からお前への不満不平で強烈な思念が渦巻いているだろう。

それをあえてぶつけてやるぞ、ストレス解消にな。

ルナンはささくれ立った気持ちでライナーを見たが、予想に反して彼は視線をあらぬ方に向けると発着口から姿を消した。

( なんだあれ )

ルナンは半ば肩すかしを食らった気持ちになり、先程除けた巾着を手にした。

明らかに兵士の私物である。

すすけた色と巾着のよれ具合から、相当使い込んだものなのだろう。

( …こういうのを見るのはあんまり… )

自分達と相対するものに「生活感」とか「人間らしさ」を垣間見てしまうと、どうにもやりにくいものである。

機械か化け物相手ぐらいの気持ちでいる事の方が何十倍も楽だからである。

ルナンは巾着を捨てることも出来ずにしばらく弄んでいたが、やがて意を決するとすうっと目を閉じ、意識を集中し始めた。

巾着が光と熱を帯びたと同時に、それは豪華な黄金色の外套となった。

ルナンは、イリュージョンで変化させてしまった外套の色を紫に更に変えようと思ったが、それを実行する為に必要な媒体が手元にないと分かると渋々諦めた。

「ま、いいか…」

左の肘に引っ掛けると発着口の奥の梯子からブリッジへ移動した。



使い魔に付近を警戒するように伝令を飛ばした後、コントロール計の針をざっと読む。

アスタルのバトルがいないことを確認すると、ようやく肩の荷が降りたような気持ちになった。思わず両手を首の後ろで組み、骨を鳴らす。

喉の渇きを覚えて、飾り棚からクラレートとティロールワインを取ってくると、しばらく2本を両手に持ち、どっちにしようか思案していたが、やがてティロールワインを棚に戻し、薬味の入った非常に強いワインで知られるクラレートの口をナイフで切った。

飾り棚の脇のサイドテーブルに立派な大理石で出来たトレーとゴブレットがセッティングされていたが、直接ラッパ飲みする。

すぐに酔いと眩暈が訪れた。

傍らの椅子を引くと、両腕を組んだ姿勢で目を閉じる。

が、すぐに目を開けるとワインをガブ飲みした。

閉じた闇の氾濫が、いやなところに引き込まれそうな感じがしたからである。

カノーヴァに火をつけ、深く煙を肺へと送り込む。

( 先にイザヴェルに行った方がいいのか?それとも条定に出頭するか… )

護符を一つでも抑えておいた方がいいのかもしれない。

王子も示唆したように、7つの護符はロックが外れてバラバラに飛び散ってると考えた方が妥当だ。オッツ・キィムで世界の均衡を保っていた時は問題なかったが、個々になったとなると話は別だ。以前、学者達が護符は単体では【負】の波動を吸収するのだと仮説を立てていた。一概に【負】の波動といってもいろいろあるから何ともいえないが、少なくともゲートは【負】の波動を放出している。

それから俺のイリュージョンと…王子様もそうだ。あいつは呪殺系だからな。

闇連中やフリーで動いている傭兵軍の手に渡ったら厄介だ。

ルナンは考えのまとまらない頭で無理やり有効的な案を叩き出そうとして、かえって訳が分からなくなっていた。

左手で頭を掻きむしると、短くなったカノーヴァを小皿に押し付ける。

その時、ビリッとした感触が両腕に伝わっていた。

嫌な予感がして、コントロール室を出ると、早足で薄く明かりの漏れている部屋を開け放った。

暗い部屋の中、唯一の明かりであるロウソクに照らされたライナーは、ベッドの端で身体を折り、手に挟まれた葉巻の先端は柔らかい手の甲を焼き、くすぶり続けていた。

ルナンは葉巻を取り上げると傍らの皿の上で火を消すと、驚いて顔を上げたライナーを鋭く睨みつけた。

「シーツに燃え移ったらコトですよ」

「無断で入ってくるな」

立てひざをつき、疲労困憊した声を出す。

「火事の危険を察知したので入らざるを得ません」

言葉を切り、火傷したライナーの手を取るとため息をついた。

「ご自分を痛めつけるシュミでも?」

「ある訳ないだろう。知らない間に燃えてたんだ」

ライナーは手を引っ込めながら言う。

「熱いという感覚はお持ちですか?それとも、五感がシャットアウトされてしまうぐらいお疲れなのですか」

「感覚なんていつもないさ。バラバラで部分的で…この説明はもう前にしたろ。それよりお前はまだ充分体力が有り余ってる様子だな。甲板の外を駆け回って、もう少し脂肪を燃焼してくるといい」

「遠慮しておきます」

ルナンは首をすくめると、椅子を引いて病人に付き添うように腰を下ろした。

ライナーがあからさまに嫌な顔をして、眉をひそめる。

「念の為ですよ、危険回避という言い方もできますが」

ルナンが聞かれる前に説明しておこう、と言わんばかりに早口で言った。

「僕が艇に火を放つとでも?そんなことするものか。嫌な男だな」

「まだ酔ってるんですか」

ライナーは火傷した手の甲を見ながら首を横に振った。

「頭の中に誰かが話しかけてくるんだ。うるさくてさ」

「幻聴…」

「さあ…僕にも分からない。だけど、いつものことなんだ。いちいち気にしてたらキリがないけど、たまに疎ましく感じる時がある」

「今がその時という訳ですか」

「まあ」

そうかもしれないな、と続けるライナーの様子は極めて穏やかに見えた。

「父上に振り向いてもらうためにはどうしたらいいんだろう。人から愛されるには何を補って努力すればいいんだろう…そんなことばっかり考えてるからかもしれない」

「王子は誰からも愛されてないとかお思いではないですよね」

「お思いだよ」

「どうしてそんな馬鹿げたことを考えるんです?王子がそう思っているだけかもしれないでしょう?」

「どうして、だと?」

ライナーはルナンを睨みつけた。

「他人の心が透けて見えてしまうという、不幸で何の役にも立たないエンチャンターを生まれつき持つ僕にそんなバカな質問をするなよ」

ルナンは沈黙を以って答える。

「……小さい時にさ」

ライナーはごろんと横になると、うわごとのように突然話し出した。

「犬を飼ってたことがあるんだ。ふさふさした茶色の毛皮をして、鼻のところが金色と赤が混じった色をしててすごくきれいだった。僕を初めて見た時、そいつは僕のことを尊敬するようなまなざしで見つめたんだ。手を出したら、ごちそうでも食べてるみたいに舐めてさ。僕はいっぺんでとりこになった。僕はそいつにジェイって命名した。それからジェイに、魔法のりんごで呪文をかけたんだ。『お前は僕のものだ。永遠に僕だけのものだ。僕以外の人間から食べ物と飲み物を口にしちゃ駄目だ。僕が死ぬ時は一緒に死ぬんだ。僕が苦しい時、お前も苦しむんだ。お前は僕以外の人間を愛さず、僕だけを愛するんだ。分かったか』ってね。それから僕達はずっと一緒だった。食事も全部僕が運んだ。ジェイの考えてることは何でも分かった。彼は本当はポニーになりたかったんだ。僕もそれを叶えてあげたいと思った。ジェイに鞍をつけて荷車を引っ張らせた。そうすると、本物のポニーみたいだった。ジェイには犬小屋なんて似合わなかった。彼はポニーだったから。僕は教育係に頼んで、彼に立派な納屋を与えるように言いつけた。でも奴はいうことをきかなかった。『王子、あれは犬ですよ。犬には小屋で充分です』って生意気なことを言ってた。だからかわりにガーラントにやらせたんだ。最初は渋ってたけど、その内、特製の納屋が与えられた。僕はふかふかで居心地のいい藁をいっぱい与えた。ジェイは、僕がやろうとした栄養たっぷりの干草を決して口にしようとはしなかった。でも僕は満足だった。少しぐらい気が強い方かいい。ジェイは強いポニーなんだ」

ルナンは勢いついて止まらなくなったライナーの話を黙って聞いていた。

彼の様子を見ていて、本当はずっと自分自身を罰し続けているのかもしれないな、と思った。

「……ある時、僕は原因不明の高熱に襲われた。何かで膝をケガして、知らずに放っておいたんだ。そしたら、普段は痛みを感じないのに、その時はだんだん痛んで…。僕は嬉しかった。ちゃんと生きてる。僕は正常だって思えたからだ」

そこで一旦言葉を切ると「…でも」と更に続けた。

「思ったよりそのケガは深刻だったんだ。何日も熱が下がらなくて、もう死ぬんだろうなって思った。それでもいい、僕は一人で死ぬんじゃないから平気だと思った。僕だけを愛するジェイも一緒に死ぬんだ。怖くない。…結局、いろいろあって僕は回復した。納屋に行くのが待ち遠しかった。ジェイは死んでなきゃいけない。僕以外の人間から食べ物も飲み物も口にしないんだから。僕は想像した。納屋で死んでいるジェイはどんなに憐れだろう。憐れな毛皮の袋みたいに骨と皮だけだ。僕は泣いて、叫んで、僕の一番の親友を見捨てさせた奴らを恨むだろう。彼は僕を愛しすぎて死んでしまったんだ。鋼鉄の心を持て、と自分を励ましてた。心の準備をしろ、と。でも違った。ジェイは生きてたんだ。ジェイは僕を見て走ってきた。尻尾を千切れんばかりに振っていた。僕は動物にも見捨てられたんだ。どうして寂しがってないのか、どうして死んでないのか、どうして僕との約束を破ったのかってわめいた。ジェイは一人ぼっちで死んでなきゃいけなかった。それなのに、彼の毛皮は艶々してて、僕よりももっとよく世話をしてくれる人を見つけたんだ。…僕はジェイの納屋に敷かれた柔らかい藁を全部掻き出して、水も食べ物もぶちまけた。そうして彼を閉じ込めて、鎧戸に頑丈な鍵をかけた。

僕は裏切られたんだ。ジェイが悲しそうに鼻声を出していたけど、もう僕は気にしない。だって僕はもうジェイを愛していないんだから。彼は真っ暗な中で飢え死にするんだ。僕が苦しんだように苦しむべきなんだ。冷たくて堅い床に寝て、きっと身体中の骨が痛むだろう。でも、そうやっていると僕がいないのか寂しくなるんだ」

「それで?」

「…それからジェイの姿は見てないよ。狼に食い殺されたんだ。僕はジェイの仇を討ってやった」

「仇?」

「大きな厭らしいケダモノだよ。そいつがジェイの納屋にいた。僕は汚らわしい赤い眼と心臓を撃ってやったんだ」


いまいましそうにしゃべるライナーを見ながら、ルナンは何かが激しく揺さぶられるような錯覚に陥った。

( …こんなにも容姿に恵まれているのに、自分に全く自信が持てない奴も珍しい )

ライナーのコバルトブルーの澄んだ瞳がルナンを捉えた。

「今、なんか僕のことで考えただろ。ここにずっと居座るつもりなら、そういうのやめてくれ。すごく疲れて、雑音に神経を擦り減らされるんだ」

イライラした口調で告げると、背中を向ける。

その背中に向かってルナンが話しかけた。

「王子は炎の中で宿って、暑さの中に生まれたようですね」

「どういう意味なのか全然分からない」

不機嫌な返事が返ってきたが、突然振り向くとルナンの顔をじっと見つめる。

「だが、別に構うことはない。この僕に無意味な言葉を投げつけておいて平気な人間はお前の他にも腐る程いるだろうが…でも、今はお前一人の対処で済む。世の中の人間は、自分は武器を捨てないくせに僕には武装解除しろと一方的で身勝手な要求をする。僕の持つ言葉や行動のシステムを全て破壊し、踏みつけにする。そのたびに、言いようのない理不尽さと憤りを感じたものだ」

「誰が何と闘ってるって言うんです?」

ライナーは肩をすくめた。

「闘ってなんかいないさ。きっと僕だけなんだろう。――両方の目が開いていて…つまり起きて覚醒した状態にいる時間は、僕にとって戦いの場でしかない。眠りから覚める瞬間、生き返る苦しさを感じるんだ。何者をも侵食できない僕だけの聖域に土足で踏み込まれる時は決まって、何も認めず、自分自身を完全にコントロールする。それが成功したら相手の息の根を止められる仕組みだ」

ライナーは窓を見ると、独り言のように呟いた。
「…外はもう真っ暗だな。いつの間に夜がきたんだ?」

「一日が過ぎるのが早い時だってありますよ」

「お前は夜が苦手なんだろ?」

ルナンが一瞬、出遅れたように間をあけた。

彼の返事を待たずにライナーが続ける。

「この間、そう言ったろ?特に月が丸くなるジュゴンの夜なんか神の眼みたいだって。僕は昼間より夜の方が好都合だと思うけどな。周りのみんなが言うんだ。『昼が隠れて夕闇に染まる瞬間、色彩を感じる』とね。でも僕には全然理解できない。喜びや悲しみ、孤独や『霊感』を感じるなんてどういうことなんだろうね。痛みだって殆ど感じないのにさ」

「その火傷は痛くないんですか」

「何も感じない」

ライナーはそう言うと、火ぶくれが出来上がっている部分をほじくり返す。手の甲がみるみる血で染まる。

「おやめなさい。細菌が入って炎症を起こしてしまいますよ」

ルナンがたしなめる。

「夜の闇はゴーストを連れてくるんだ。色彩を感じない僕にも感じさせてくれる。それに闇は見たくないものを全て消し去ってくれる。僕の姿も形も存在そのものも空気中に溶けていって、風景と同化する。自由になってどこまでも飛んでいけるんだ」

ルナンの注意が耳に入らないのか、相変わらず傷口を広げて楽しむかのようにむしり続けている。

「昼の陽光を浴びて瑞々しく咲き誇るアザレアを見れなくても?」

「花なんていつか干からびて腐っていくだけだろ。いつまでも同じではいられないんだ。そんなものに興味はないね。――そういえば、お前の名前はなんでガゼリオ( 償う悪魔の )フレイ( 戦利品 )なんだ?」

ルナンは溜息をついた。

「―…王子。そんな事ばっかり言ってるとほんとに馬鹿みたいですよ。言葉自体に深い意味なんてありません。それに正しくは、神聖名とファーストネームを合わせた全部で【悪魔的な】という意味だそうですが、それだってこじつけのようなものです」

「意味のない名前なんてあるものか、大抵、意味があって付けられるものなんだ」

ライナーがムッとして反論する。

「僕の正式名を知っているか」

「勿論、知ってますよ」

「神聖名を含めて【奇跡的な魂】という意味があるそうだ。僕は、父上が祖父母の事を何も教えてくれなかったせいもあって、ギャラガー家の由来を知らないけどね。だけど、想像するにきっと気高くて狡猾な一族だったに違いない。でなけりゃ、僕みたいに生きていくのに苦労を強いられるようなのが出てくるなんて変だものな。僕はどこか歯車が狂った時計みたいなものだ。どこが狂ったのか分からないまま、ネジを片手に間違った時を刻み続ける」

「王子」

「僕は怖い。生きていくのが。いつか何もかも壊れてしまいそうで。僕が愛するものはすぐ壊れる。それは僕が悪いんじゃない。ただ、ちょっと不器用なだけなんだ。でも、大切に想えば想う程、相手はすくみ、怯え、僕の前からいなくなってしまう。親でさえ僕の魂を悪い種だとか言う」

ライナーは両目を片手の甲で覆った。頭がくらくらしてきて吐き気がする。

こうして内なる思いを【告白】という形で表面化することによって、自分自身が剥き出しにされたように感じるのだ。

だけど、心の一部分では今にも何かを理解しそうになっていると警告してくる。

これまで価値の分からなかった、封鎖されて使われないままになっていた知識が、どこか奥深いところに眠っているように思える。

「王子」

「僕はいい調子だよ」

「パターン化された台本のセリフは聞き飽きましたよ。王子はどんな時に幸せを感じるのですか?」

幸せ?僕が幸せになれるのは、彼が僕の人生からいなくなる時だけだ。

彼がどこかに潜んで、この世で生き続けている限り僕は幸せになんかなれない。

…思い出した。僕は彗星の生贄になって死ぬかもしれないんだ。

だったら、彼がこの世から消え去る前に、僕の方が去るかもしれないってことか。

上等じゃないか。

ライナーは拳を固めた。

誰が死ぬものか!

父上にも愛されなかった僕が先に死ぬ?そんな馬鹿な!

「何を考え込んでるんですか、王子」

…遠くの方で声が聞こえる。

僕はここにはいないというのに。僕は今、透き通ったガラスで誰かに姿を見られるはずがない。感覚も意識も何もない状態で横たわっている物と同じという訳だ。夜の闇も味方をしてくれる。

「王子、唇を噛むのをおやめなさい。血がにじんできてますよ。それに火ぶくれを触って傷口を広めるのも、これ以上はやめておいた方が懸命です。跡が残ってしまうでしょう」

いつか大昔、目の前のこいつが言っていたことがある。

何かを感じたり考えたりするためには、神経系が備わってなくてはならないと。

それは、これまでの自分の認識を根底からくつがえすような論理だった。

僕は部屋に戻ってきて、「死んでしまった」物達を見て、この新しい「認識」が沸きあがってくるのを、胸が締め付けられるように感じていたものだ。

僕は僕が思っていた以上に独りであることを恐ろしい程感じた。

僕の周りのものは何一つとして、僕がここにいると分かってくれるものはないのだ。

「僕は誰とも、何とも一緒ではないんだ」

もはや否定するこのできないシステムを受け容れない訳にはいかない。

「自分が真っ二つに引き裂かれていく気分だ。脳のどこかで錆付いた歯車が、突然動き出したようでもある。だけど、制御範囲内だから何とか耐えられる」

「王子」

ライナーは突然、横たわっていた身体を起こし、それと同時に全身から光の洪水を放った。たくさんの色の氾濫が、押し寄せる感情の波のように周囲をとりまいたと思ったら、あっという間に妖精のような姿に変化する。

ルナンは眩しさに眼を細めながら駆け寄り、前に倒れ掛かるライナーを受け止めた。

息をするのが苦しい。胸は鉄のベルトを嵌められたように締め付けられ、窒息しそうになる。物の死骸に囲まれて生きてきた事実を知らなかった。その事実が、一層気持ちを沈みこませる。

ルナンは、ライナーの全身ががたがたと痙攣しているのを何とか治めようと、背中をゆっくり撫で、誰にも聞きとれないような小さな声で、大丈夫ですよ、貴方の敵はここにはいませんよ、と囁き続けた。

それはライナーにとっては、大きな背丈のある逞しい木々に守られているような感覚だった。温度があり、たのもしく、包容力のあるもので、新しい鍵をもらったような気分でもあった。鍵はたくさんあって、まだまだ知らない未知の世界がある。

「…自分がどこかに属してる、自分も一緒にいるという感覚…」

何かと共にあるという感覚というのは、今のこの状況のこと?

ここは自分の居場所?

背中の大きな手が温度を以って、上下に移動していくのが分かる。

その感覚が胸の中に突き刺さって浸透していくのが実感される。

「アザレアの匂いがする」

ライナーはふいに呟いた。

「アザレア?そんな香は焚いてはいませんが…」

「いや、これはアザレアの匂いだ。鮮やかな紫の…」

目の前にあるこの髪と一緒だと思った。初めてこの髪を見た時、思わず触りたくなった。

高貴な紫はいつだって僕の憧れで遠い存在だ。

その髪が手を伸ばせば届くところにあって、そこから一定の脈を打つ心臓につながっている。それがよく知っている人物のものだと思った。

「少し、落ち着かれましたか」

「ディのことを思い出した」

「え」

ライナーは顔を離すと、ルナンの眼を見つめた。

「ディアブロのディ」

「ディアブロ…?」

「お前の名前の一つだよ。僕の中のもう一つの意識がそう言ってる」

「もう一つって、レンジローバーのことですか?」

ライナーは頷いた。

「お前は忘れてるだけだと声が言う。もしかするとコルトに関係があるのかも」

( コルトか。あれも謎の一つだな。それよりも… )

ルナンは胸に顔をつけてきたライナーの背中を摩りながら、彗星のことを考えた。

彗星の申し子…鎧を脱ぎ去った本来の姿。

だとすると、普段の鎧に覆われた状態とエラい違いじゃないかと改めて実感した。

普段の彼は、人に触れられる事を極端に嫌い、目すらまともに合わせない。

たとえ睨み据えて目が合ったとしても、そこには人間らしい感情が何も表れていなかった。相手を見るガラス玉のような瞳も、人を見ているというよりかは、ゼンマイ仕掛けの人形が行ったりきたりするのが視界に入っている、という感じで、とてもじゃないが気分のいいものではなかった。
それに加えて今の姿は、人を人として感じていたり、温度があるなどと言うようなところを見ると、感情を持って接触することがどういうことなのか必死で掴み取ろうとしているようなところがある。

生まれたての赤んぼうが世の中のいろんな初めての事柄に興味を持つように、この妖精も知りたいのだろうか。

それに…。

「ところで、王子のエンチャンターは今、どうなってるのですか」

「何も聴こえてこない…。心臓の鼓動が規則正しく胸を打つ音が響いてくる。僕は今、ひどく剥き出しにされて怖いはずなのに、恐怖がどこにも見つからない。不思議なんだ。吐き気も動悸も心が叫び声をあげることもない」

また顔を上げて目が合う。

同じコバルトブルーの瞳なのにこうも印象が違うものかとルナンは再認識した。

二重の宝石のような瞳の中に自分の姿が透けて見えるようで、何をも隠し通せるものではない、とこの非常識な美の前に投げ出されている気分である。

ルナンはすうっと耳たぶが熱くなるのを感じた。

「あたたかい」

ライナーは静かに手を胸に当てると続けて言った。

「温度が違う。僕がこれまで触ってきたものは単なる肉と血と骨の塊にすぎなかった。意義がないと言ったらいいのかもしれない。感情とか情緒とかいうものには何の関係もなくて…でもこれは違う。それで違いが分かったんだ」

何かに胸を打たれるような感覚というのは感動というのだろうか。

失い続けてるというのはただの思い込みだったのだろうか。

「また、こんな風に感じられると思う?」

ライナーの質問に、ルナンは勿論、と答えた。

「僕達はいつ知り合ったの?それからどれくらいが経ったか分かる?」

この彼の問いには自信があった。ルナンは穏やかに微笑むと「C.0013 ジュゴン・3クール」と答えた。

それよりもずっと前から姿だけは目撃していた。

ただ、その存在が何なのかはっきり分かってなかったんだ。

「初めまして」

ルナンは身体を離してライナーをヘッドボードにもたせかけると恭しく一礼した。

ライナーが驚いたような顔をする。

「600暦ぐらい経ったのかと思った」

「これからでしょう」

「僕のことをどれくらい知ってる?もう知るのはいやになった?」

「一つずつ発見していきますよ」

「知りたくない?」

「いいえ」

「もう飽きた?」

ルナンは首を横に振った。

「君は、本当の僕を救い出し、眠っている意識を掘り起こしてくれる。そんな気がする」




灰色の霧に包まれた闇の中を航行していたケーシップのガーラント隊は、鬱蒼とした森の近くに降りると、テントを張り、結界の準備を始めた。

「隊長、結界石を二重に敷きました」

グレースがガーラントの許可を得ようと前に進み出る。

ガーラントは細かく点検できるように、ぐるりと結界石の周辺を見て回ると、満足そうに頷いた。

「ようし、充分だろう、グレース。皆にそれぞれのテントで休息をとるように伝えろ。交代で見張りを立てることを忘れるでないぞ」

「ハッ」

グレースは敬礼すると、迅速に行動した。

彼の指示でようやく休憩ができると知った兵達は、安堵の表情を浮かべる。

しばらくして、各小隊のテントが中で明かりの灯を落とし始めるのを見届けると、グレースもガーラントのテントに向かった。

テントの両端についている警護兵に軽く手を振ると、速やかに中に入る。

ガーラントは寝床の上であぐらをかきながらエールを飲んでいるところだった。

グレースにエールの入った銅杯を渡すと、自分の杯と合わせる。

グレースは頭を下げると、杯を一気に飲み干した。

「いい酒だ。温度もちょうどいい」

ガーラントはグレースの杯に酒を注ぎながら言った。

「はい、自分もそう思います」

「明日は旧マベロード付近に到着できそうだな」

「ええ。このケーシップならば確実でしょう。使い魔が、旧サディラスと連奇石付近で「闇」が動いたとの報告をしてきておりますが」

ガーラントは眉をしかめ、表情を曇らせた。

「うん、気になるな。旧サディラスは我がREGENDの保護国の中でも有数な魔導部隊が結集しているところ。そう簡単には落ちんと思うが…。我らが特佐殿の目下の最優先事項は、REGEND本隊の残存部隊の捜索と集結。他へ人員を割くゆとりはないからな。無事を祈るのみだ」

「隊長、王子は大丈夫でありましょうか」

グレースが心配そうに呟いた。

ガーラントはガハハと豪快に笑うと、自分の杯に酒を注ぎ足す。

「小心者は出世できんぞ、グレース。あの方をどなたと心得る。フレイ特佐お墨付きの、俺の太刀裁きを王子が幼い頃から直々に仕込んできたのだぞ。怪しい下等陰魔や魔族ごときに易々と屈するお方ではないわ」

「はあ…そ、それは確かに。王子がお強いことは自分も知っております。しかし、王子はこんなに長い間、慣れない環境でお過ごしになったことなどないはず。自分は王子のお身体の方を案じているのです」

「…それはそうだ。王子は肉体的にというより、精神的にお強い訳ではない。お前、覚えてるか?グレース。王子がまだ9歳ぐらいの時、犬を飼っていたことがあったんだが」

グレースはああ、と反射的に声をあげた。

「その時の事でしたらよく覚えてますよ。錆びた釘でケガをした王子を発見したのは自分でしたから」

「城の庭の生垣に半身を突っ込んだような形で倒れていたと言っておったな」

グレースは酒を口に含むと、記憶の糸をたぐり寄せるように続けた。

「声をおかけしたんですよ。目が開いていたから…」

その時の情景が頭の中に蘇ってくる。


王子は赤く火照った顔をして、どんよりした目つきでグレースを見上げていた。

『さわるな』彼は低く呻いた。

『もうすぐ死ぬんだ…あそこに行くんだ』

『大丈夫ですか、王子。今、人を呼びます』


「…自分は必死で助けを呼びました。王子の身体を茂みの中から引っ張り出しますと、王子は脚が痛いとおっしゃいました。私は無我夢中で王子を抱き上げると、城内に向かって駆けました。私に抱かれている間も、王子は独り言を呟いておられたのです」


『…地上は死んだ人間でいっぱいだ。死んだ動物や死んだ植物。そういうのは全部肥料になるんだ』


グレースは遠くを見るような目をして、その時の様子を語る。

「王子はひどい状態でした。額に玉の汗を浮かべ、小さな痩せた体は意識を失ってぐったりしておいででした。ケガをしたという脚は通常の3倍に膨れ上がり、与える全ての薬に拒絶反応を起こして…」

「そうだったな。俺は王子が混濁した意識の中で、ずっとジェイの名前を呼び続けているのを聞いて、納屋に行ったのだ」

グレースはガーラントの続きを黙って待った。

「……俺はな、王子からキツく申しつかっておったから犬の様子は詳しく知らなかったんだが、納屋に行ってジェイを見た瞬間、あまりの光景に息を呑んだものだ」

「ガーラント隊長…」

「ジェイはな、納屋の土間に打ち込んである杭に、鎖でつないでおったのだ。湿った犬のエサが届かないところへ置いてあった。ごわごわした毛並みで、俺は一目そいつを見た途端、奴がどんなに飢えているかわかった。耳ざわりな喘ぎ声を洩らして、大きな落ち窪んだ眼で訴えるように俺を見上げたんだ」

彼は言葉を切り、つまみがわりのナッツを口に入れた。

「地面には逃げようとしてあがいた爪の跡がくっきり残ってたよ…。俺は正直、恐ろしかったな。腐りきって悪臭を放っていた水桶を捨てて、新しく汲んだ水を与えようとしたら、ジェイはむさぼるように飲んだ。長い間一滴も水を飲まなかった後は、犬だって人間のように少しずつ飲まなきゃならんのだ。俺は水桶からジェイを離して、奴の食料が並んでいる棚のところへ行って、一番良さそうだと思えるものを選んだ」

グレースは息を詰めてガーラントの話に聞き入っている。

「奴の飢え方はひどいもんだった…。美しかったに違いない奴の毛を撫でると、あばら骨がごつごつと手に当たってな…。王子の考え方だと、奴が辛い思いをすればする程、再会した時に十倍も感謝するだろうという事になるのだ」

「隊長…その続きは自分も知ってます。王子の熱が下がり、ケガが治って少ししたらジェイが殺されたんです」

ガーラントは深い溜息をついた。

「…俺は王子にとって余計なことをしたのかもしれん。どの道、王子にはジェイが別の生き物に見えていたらしい」

「…狼を撃ったとおっしゃってましたね」

「ああ…」

ガーラントは肩を落として黙り込んだ。

「隊長、自分はこう思うのですが…王子はフレイ特佐とご一緒に行動されてから、少し変わったように思えるのです。際立ってどこがどうという訳ではないのですが、勿論、いい方向にです」

「そうかな?俺にはよく分からんが」

「いいえ、絶対にそうです。誰にも心を開くことのなかったお方が特佐には…。あの方が王子を変えてくれるかもしれません」

グレースの明るい声に、ガーラントは表情を和らげた。

「…そうだな。お前の言う通りかもしれん。おの方は我らの正義で、生きる糧でもあるのだ。あの方がついていらっしゃる限り、我々の未来に希望はある。そういう事だな」

「はい、ガーラント隊長」

グレースは力強く答え、もう一度杯を合わせた。




『お前、守ろうとするものに対し強くなりたい、そう思ったことはあるか?』

『何それ?僕が何を守るって言うのさ』

『…例えばそうだな、友達や好きな人なんかさ』






「好きな人も友達もこっちの世界にいないっつーの」

彰人は読みかけの小説を閉じると溜息をついた。

「…そうか。俺ってそういう存在…いないのか。それはそれで何か寂しいものがあるよな」独り言を呟き、天井を見上げた刹那、ノックの音がした。

「はい?」

彰人は咄嗟に時計を捜したが、それらしきものがないと分かると、半身を起こして訪問者を待った。

「すまんな、こんな夜更けに」

ギュネイが扉から顔を覗かせると手にしたワインを持ち上げて見せた。

「寝酒に一杯やらないか?」

彰人は目が点になりそうになるのをぐっとこらえて小さく頷いた。

「俺は未成年スよ」

釘をさすつもりで言ってみたが、逆に言葉の意味の説明を求められてうっと返事に詰まる羽目になる。

「お前の国には面白い規則があるのだな。その【みせいねん】という規定に引っ掛かるものは酒が飲めんという訳か。一体、誰がそんなこと決めるのだ?」

「一体誰がって言われても…天皇でしょ」

彰人は底が見えない程、濃厚なワインをちびちびと飲みながら答えた。

「てんのうって何だ」

「天皇スか?…えー…国の代表つーか…こっちで言ったら王様みたいな存在になんのかな」

「国王か」

「…ま…そんなもんスね。…隊長、もうやめて下さいよ。俺に難しい質問ばっかり振るのは。俺、あんな頭よくないんで、国とか政治とか苦手っつーか…知らないつーか」

「自分の国の事ではないか」

ギュネイはおかしな奴だ、と笑いながらグラスに並々ワインを注いだ。

「愛国心ゼロでも何とでも言ってくださいよ。マジで勘弁なんスから」

彰人が言った時、彼の耳に波の打ち寄せる心地良い響きが音楽のように聴こえてきた。

――そうか。

ここは船の中だった。

バーモントとかいう付近でグランドフィルダーに乗り換えるまでは船でということを聞かされ、ドクター・キニアスの館を出発したのは――あれはいつのことだったのか。

周りは見渡す限り一面、海、海、海。

夜ともなると不気味なくらい静けさと、不安な気配をどこからともなく波間に乗せて運んでくる。

彰人は船室の小窓から月の光に照らされて見える地平線を眺めながら、故郷に思いを馳せた。

「何か考え事か?」

ギュネイの声で我にかえった彰人は、頭を掻きながらつくり笑いでごまかした。

「…いや、その…みんなどうしてるかと思って」

言ってしまってからギュネイの顔がかすかに曇ったように見え、慌てて訂正する。

「あ、すんません。そういうつもりじゃないッスよ」

( ヤベえ…どう説明していいのかわかんねえ )

彰人は焦りながら、未だに着慣れないこっちの世界の衣服の、肌に密着してごわごわした部分をうっとうしそうに仰いだ。

「その服のせいか?それが気にいらないということか」

「えっ」

彰人は違いますってば、と言いながらグラスに残ったワインを一気に飲み干す。

ギュネイはベッド脇に置いてある長持ちから彰人が来た時に着ていた服を取り出した。

「我慢することはない。嫌ならこれを着ればいい。味方の兵には俺から言っておく」

彰人はギュネイの差し出した服を断ると、息を吐き出した。

「…すんません、俺、ほんとに。なんつか、俺、まだ実感ないっつーか…こっちにいる…。何て言ったらいいのか、その…現実として受け止めてないところがあるんスよ」

「現実?」

「この服も嫌だとかいうんじゃなくて、民族衣装着てるみたいでウソっぽいっつーか。―…あー…っつっても、これじゃ駄目だっつー自覚もあるんスよ。けど…」

ま、中途半端だよな、俺。

言ってることも支離滅裂だし。

そう。駄目なんだ、こんなんじゃ。

俺はどんどん哀れで惨めな奴になっていく。

こんな時にイヤという程思い知らされる自分の弱さやもろさ。

そしてますます自分が嫌いになる。

本当に――俺は弱い、弱すぎだ。

「…すんませ…俺、ちょっと…」

彰人は膝を抱え込み、頭ごと突っ伏してしまった。

閉じられた二つの目からは涙が溢れ出す。

彰人は止まらなくなった涙をせき止めようと必死で咳払いをしたが、逆効果となった。

ギュネイは彰人の肩を引き寄せると、殆ど呟きに近い声で話し出した。

「――俺には家族がいない。つい最近、父上がお亡くなりになってからは殆ど独りも同然だ。母上はもう随分前に逝かれたしな。たった一人の兄弟は生死も分からん。――まあ、兄弟といっても腹違いなんだが。だからかもしれんが、お前を見ていると昔の自分を思い出す。ただ、がむしゃらに野望だけはあって…でも本当はいつだって孤独と戦ってきた。人に気づかれたくなくて、自分を無理にふるいたたせたりしてな」

彰人は顔をゆっくり上げた。

ギュネイは目を真っ赤に腫らし、紅潮した彰人の顔を見て笑った。

「お前は今みたいな顔がいい。ずっとそういう顔をしてろ」

「…今みたいなって、泣きの入った野郎ってサイアクッスよ」

「ははは、そりゃあそうだ」

ギュネイは彰人の背中を叩くとワインを継ぎ足した。

「隊長…その…隊長の兄弟って、どこにいるのかわかんないんスか」

「ん?ああ、まあな。アスタルはご存命だと信じてるみたいだけどな」

「アスタル…」

「兄上の父君だ。アスタル・ガゼリオ・フレイ。ミドルネームのところが俺のガセルグに似て異なるという意味で付けられている」

彰人はへぇー、と相槌を打つと、ギュネイにワインを継ぎ足してもらった。

「ゼルダ・ガゼリオ・フレイ。兄上の名だ。―…いい名だろう?」

「…そうスね」

彰人は、この人の兄はどんな人なんだろうと想像してみた。

女っけがなく逞しいが、気骨のあるこの人の異父兄弟。

( 俺が日本人だからかな。こっちの世界の人ってみんな濃いっつーか存在感あるように見えんだけど )

「兄上には俺もお会いしてみたい。顔すら知らないからな」

ギュネイが言いながら遠くを見るような眼差しを天井付近に向けた時、騒々しい足音がして船室の扉が開かれた。

「お休み中のところ、申し訳ありません」

「どうした」

息を切らせながら頭を下げる兵士にギュネイが尋ねる。

「旧サディラスが落ちたとの報告がありました」

「何だと?あの地上屈指の魔導部隊が落とされただと?やったのは誰だ!デューンか」

「いえ、カレル・ラーン。ドラーケン部隊です」

ギュネイは握り拳を固めた。

「…カレル…!」

「隊長…サディラスの遺跡がエルリックに取られたとなると…」

「分かっている」

彰人は二人の緊迫した雰囲気に圧倒されながらも、物音を立てないよう、息をひそめて後方から見守っていた。

ギュネイは兵士に、サディラスへ向けて討伐部隊を編成させ、ドラーケン部隊の追尾指揮をコマンダーに託して兵士を扉の外へ出した。

彰人の方へ向き直ると苦笑いを見せる。

「すまんな。心細い思いをさせて」

「何かあったんスか」

「…ちょっとな。傘下につけようとしていたところが襲撃されてな」

「全滅したんスか」

ギュネイはいや、と片手を振った。

「この天変地異でどこもかしこも想定外の大惨事だ。世界の均衡を保つ役割を担う護符はバラバラに飛び散り、彗星の波動を吸収し、蓄えるべく秘密裏に建設された遺跡は敵方の手に渡った。あと数クールもすれば、エルリックの掲げた上定がアンダーソン憲章に則って開催されるというのに、俺には切り札になる手駒さえ満足に持ち得ない有様だ。このままアスタルの護衛で上定に出席するということは、丸裸で敵陣に乗り込むようなものだ。その前に、俺としては一つでも手札を揃えておきたいのだがな」

彰人は、虚空を見据えて話すギュネイに威圧感を覚えた。

( …なる程…すげえや。何かしんねえけど隊長って感じだよな。雰囲気あるっつーか… )

「こんな話になってしまってすまんな。お前は何も気に病むことはない。事態が落ち着いてくれば突破口が見えてくる。余計なことは考えずに睡眠と食事を十分とって健康であることを心がけていろ」

ギュネイはそう言い残すと部屋から退出した。

後に残された彰人は、ワインで目を回しながらベッドに飛び込んだ。

( …戦争…やってんだな。実感、沸かねえけど )

目を閉じ、別れてきた友達の顔を脳裏に思い浮かべる。

それからしばらくぼけっとしていたが、ふいにベッドから跳ね上がるように身を起こすと、リュックから紙とペンを取り出して日記を書き始めた。



○月×日 天気 曇り


相変わらず海の上が続く。

赤マルがとうとう切れやがった。ちくしょー。

大事に大事に吸ってたのに、隊長が美味いとも感じてないくせに、もう一本もう一本とねだるので渋々ふるまってやっていたら、とうとうなくなった。

ニコチン中毒の俺的には非常事態って訳だ。

明日から葉巻、吸って慣れるべし。



「……緊張感とかねえのかよ」

ペンを置き、読み返しながら一人ごちる。



○月▲日 天気 晴れ


昨日まで俺は確かに東京にいた。

でも今はどこにいるのかわからない。

これから俺はどうなるんだ?

人の言葉がわからない。

わかることなんて一つもない。




×月□日 天気 不明


いれかわり立ち代り人がやってきては何かしゃべっている。

うぜえと思うが、それをどうやって伝えたらいいかわからない。

イライラする。

タバコが吸いてえ。



☆月■日 天気 雷


言葉が通じないってことは不便極まりない。

もどかしいわキツいわストレスたまるわ最悪。

もうあれから何日とか数えるのも飽きた。

ヒマだけど何もできることがない。

ゲームもない。クリス・タッカーの新作も観れない。

ワールドカップ、楽しみにしてたのに。



×月◆日 天気 ?


アムロみたいな髪型の男がしょっ中、部屋にやってきてはいろいろと見せたがる。

何をどう見せられても俺は何も分かんねえっつーのに。

一体、どこの国の服かは知らねえけど、通気性悪いっつーの。

硬いしごわごわするし重いし。

これがパジャマだったら笑うしかない。




彰人はこの世界にきた頃の日記を読み返しながら溜息をついた。

( …文才、ねえな )

それに、今の俺と何もかも一緒だ。成長ないっつーか。

日記がわりの羊皮紙を丸めてリュックに入れると、シーツを頭から被った。

( …んな簡単にいかねえだろって )

隊長も健康でいろって言われたばっかじゃねえか。

訳わかってねえ状態でいろいろ考えたって無駄だろ。



彰人はそのまま深い眠りの中に落ちていった。

by つづらりんこ at 23:35

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

 
runnan_face



GUARD WALL…ガードウォール


ガードウォール



バトル編成上最も最小の単位とされるラインを編成し、このラインをいくつか組んで壁を作る。このグループをガードウォールと呼び、このラインはランス又はバナーの指揮官が戦闘レベルに応じて配置する。 


Line−ライン


 間違ってもライナーではなくラインである。


 ラインの編成は次の通り


 一番先頭のラインから
 @ファーストライン
 Aセカンドライン
 Bエンドライン


 この場合のBのラインの名称はサードラインではなくエンドライン。
最後のラインについては何本のラインの編成であってもエンドラインと呼ばれるがまれに戦闘の内容によってはこのラインをデッドラインと呼ぶ事もある。
 


FORMATION…フォーメーション


いくつかのラインで編成されたガードウォールをどのような形で配置するかでバトル編成が決まる。 



Battle<SQUARE>スクエア

フォーメーション


間違ってもどこかのゲーム会社ではない。


指揮官を先頭にガードウォールを四角形に配置するバトルの組み方。


ガードウォールは指揮官の位置を常に北側とし東西南と位置を定め
東側の壁をイーストウォール
西側の壁をウエストウォール
南側の壁をサウスウォールと呼ぶ。



Battle<CIRCLE>サークル


 

サークル


しつこいようだが間違っても何かの愛好会ではない。


指揮官を先頭にガードウォールを四方に配置したバトルの組み方。どちらかといえばこちらがスクエアではないのか?そう言われれば身も蓋もない。


壁の名称はスクエアとほぼ同じ。
北側の壁がノースウォール
西側の壁がウエストウォール
東側の壁がイーストウォール
南の壁がサウスウォール



Battle<CROSS>クロス



クロス


不浄を取り払う十字を切る仕草から十字は神聖な形とされる。


バトル編成の中で最も複雑でかつ鉄壁の守備体制を取るのがこの形。

ほかの2つに比べて大きく違うのはウォールの数とコアの存在。


ノース、ウエスト、イースト、サウスウォールに加え、ノースウォールの前にもう一つフロントウォール、サウスウォールの後ろにバックウォールが増える。


この際フロントウォール、バックウォールについてはバナレット騎士以上、もしくは特佐の指名する人間以外はこの位置に配置される事はない。


従って必然的にこの形はランスのみで編成される事はあり得ない。


コアは総司令を出す場所でいわゆる本陣のようなもの。

この場所は最高指令指揮官が指揮をとる場所。


通常はルナンやダークがこの場所で指揮を取る。

だが、これは一概に言い切ることが出来ず、特にルナンに関してはここに踏ん反り返って指揮を取る事はまずあり得ないといって良い。


大体ガーラントもしくはグレースにコアを任せ自分はとっとと斬り込み隊長で切り込んでいく事が多い。    


3つのバトル編成については戦闘内容によって大きく左右されるが、いくつか例をあげてその規模を明確にすると、例えばバトル編成をスクエアとすると、サウスウォールをファーストシード、イーストウォールをセカンドシード、ウエストウォールをサテライトが組むランスのみで構成されるスクエアが出来る。

    
次に同じくスクエア編成でサウスウォールをレッド・バロウズ、イーストウォールをバロネス・ローズ、ウエストウォールをボーン・テンプルと編成すると全てがバナーで構成されるスクエアになる。   

 
簡単に言えばウォールをランスで組むかバナーで組むかによって兵士の数が変わり規模も変化する。 

   
ただ、全てのウォールをバナーで構成するクロスのバトル編成だととんでもなく無敵艦隊だし、それなりの戦闘を控えていると取れる。


逆に全てのウォールがランスだけでスクエアだったりするとかなり弱っちい編成になる。

 

by つづらりんこ at 09:34

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

2008-05-04 (日)

【酒場など】

leiner_face




■ミレニアムでは酒場は宿屋も兼ねているところが多いという設定です。

中には娼家も兼ねているところもあります。

         
 看板には葡萄の蔓や木蔦の装飾がなされており、それらの意味するところは「良い酒がありますよ」ということを現して いるものなのです。


あと、ヘキサグラムという、三角形を逆向きに重ねた形でダヴィデの星といわれるものが施されている店 も多かったようです。

これは魔よけの効果があると言われています。    

     
当時盛んだったゲームで「チェッカー」というものが出てきますが、これはアメリカのドラフツにちなんだもので、市松模様の盤を使 い、互いの駒を取り合うルールですが、この盤の白と黒の格子柄は酒とゲームを表したものなのです。         
 


         
 ■酒場のメニューには、食事らしいものは特にありません。

酒の種類としてはワイン、ビール( エールとも言う )、場所によってはシードルなどを出しています。肴のたぐいはチーズかパンで、地方では大鍋で煮込んだ豆のスープや焼肉を添えているところも ありますが、基本は酒です。


ギュネイが食べたがってるドラゴンステーキを扱っている店なんかきっとないでしょう。



         
          
 ■宿泊施設としての酒場は殆どが相部屋で男女の区別はなし。


寝る時には一切身につけずに寝るのが平民のならわしとなっています。

ルナンやダークも自宅ではそうしてたのでしょうが、城内勤務が始まり、昼も夜もない生活が長く続いたので、さすがに裸で寝るということはないだろうと思われます。


勿論これは私の推測ですが。貴族であるライナーやルビーはシルク素材の高価な夜着を着て寝ていたようです。


ライナーは何も着ない時もままありますが、これは単に面倒なだけだと思います。         
          
          

by つづらりんこ at 00:15 │TrackBack (2)

トラックバックURL http://blog.qlep.com/trackback/receive.php/162259/150211

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

■黒ビール■

「ライ麦」を原料に作られたもので、酸味とえぐ味から「飲むパン」とも呼ばれる。


■地ビール■

土地で独自に製法されたもの。( 大麦+ホップ )


■エール■

「カラス麦」を原料に作られたものでアルコール度数は5〜6%と低め。常温で飲む。


■アムリタ■

宴席で国王などが飲む高級な酒。


■ワイン■

アンナの手作りワインは有名だが、酸味も強くどろっとしたものが多いのが特徴。

 

■蜂蜜酒■

蜂蜜が入っているものでライナーの大好物。ルナンは苦手。


■薔薇酒■

バラの香りのするワインの一種。


■シードル■

民間用に「市」が立つ日によく売りに出されている。安くてさらっとしている。

 

 
■飲み物一般■

 
■ポータージュ■

温かいスープのようなもの。

フダンソウ、クミン、ガルムなどを煮立たせて作る。


■ハーブティー■

ルビーが気に入ってよく飲んでいた。お茶の時間にはかかせない一品。


■バンカム■

一般的には薬なのだがこれを喜んで飲む奴がいる。現代でいうところのコーヒー。


■水■

ウォーター・スキンに入れて腰にぶら下げるギュネイで有名。水売りもいる。


■ティー■

紅茶のようなもの。香りのよい葉を煮溶かして飲む。

 


 
■料理の種類■

 
【パン類】


■白パン・黒パン■

一般的には朝食用。常に用意されていたりもする。


■ライ麦パン■

テーブルパンで主に昼食用。


■ライブレッド・オストレアリス■

牡蠣を食べる際に一緒に食べるパン。


■スフレパン・グリュエールパン■

メインディッシュに添えられる場合が多い。


■レーズンパン・バターブレッド■

上記に同じ。ただしこちらは民間用。



【料理一般】


■エッグ・ベネフィクト/クグロフ■

卵料理で、宴席に限らず食事の基本は必ず卵。

 

■シビエ■

( 鴨・鶏 )肉料理でメインディッシュになる。


■魚のムニエル/ガンボ■

左は魚料理、右は一種のパエリヤ。アイクの得意料理でもある。


■パティーナ/キッシュ■

どちらもデザート。

 

by つづらりんこ at 01:35 │TrackBack (0)

トラックバックURL http://blog.qlep.com/trackback/receive.php/162259/149242

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

2008-04-29 (火)

【慣習など】

■慣例儀式の概念■


 

【慣習】人が、個から集団での生活を始めた時、そこにはある種の決まりごとが生まれます。 REGENDでは、主に自然に対する禁忌、神や精霊に対しての感謝や祈り、社会を営む上での善悪の基準を、祭りごとや罪という枠組みの中で表現しています。



【慣例儀式の種類】


■生誕祭(=Birth festival)■

 

カスツールでは乳児の死亡率が高かった為に、新しい誕生の喜びは「前夜祭」「生誕祭」「後夜祭」の3セットで、3日3晩徹夜で大騒ぎするものとなっている。


特に貴族階級や国王の親族においては、街中のパレードや凱旋、豪華な宴席など、かなりど派手にどんちゃんやる。



■トゥエフルズ・ナイト(=The festival of a rich crop)■


豊穣(ハーベスト)を祝う祝祭で、12の薪を囲んで乾杯し、マミング(聖なる麦穂の活躍をたたえる芝居) やトゥエフルズ・ファイヤー(花火の一種)を夜空に打ち上げる。



■ミドサマー・イヴ(=A green festival)■


緑を称える祭りで、マベロード付近でさかんに行われている。レントという四旬節の儀式(7日7晩の断食)を行った大司祭が祈りを捧げる。



■聖還祭(=The festival which sinks a soul)■


生誕祭の反対で、死者を弔う慣行の意。

死者の魂は洗礼によって聖なる魂となり、土へ還る事を現している。

死者の家にある水などが入った容器に蓋をし、(これは魂が溺れない為と、生前の汚れを落とす為に沐浴するのを防ぐ為)部屋に聖別されたロウソクを置いて、魔よけのお守りを用意するのがならわしとなっている。


死者を収めた棺はそのまま教会へ続く道を進み、追悼の祈りの後、棺はトランジの描かれた墓石の下に埋葬される。墓穴に聖水がまかれ、棺が埋められて死者は現世に別れを告げて永遠に旅立てるといわれている。



***ここでいうトランジとは、主に上流階級や高位の者が美徳と謙遜を表現する為に墓石に描かせる紋様の事を指す。




【誕生のこと】


赤ん坊の命名には3日以内に行われる洗礼の儀式の後、できるだけたくさんの名付け親として代父・代母が呼び集められる。それは一人ずつではなく、2〜3人集められるのが普通で、戸籍がない為に、出生や洗礼の記録は立ち会った人の記憶の中にしかない。という訳でなるべくたくさんの代父・代母が必要なのである。


こうして洗礼を終え、名前のついた赤ん坊は、無事に神の保護下(通常両親=元親の信仰している神)に置かれるということになるのである。



 

 

■生命の定義■

 
ミレニアムの世界に於いて、誕生の喜びと死の哀しみはとても近い存在である。

乳児の死亡率が大変高かった為に、新しい生命の誕生の喜びはいつ死の哀しみに変わってもおかしくはなかったからだ。


赤ん坊の生存率はほぼ4分の1であったので、無事に1歳を迎えられたとしても、その後成人を迎えるまでに育つというのはもっと困難なこと。


作中、大聖堂に避難した一般市民の中で赤ん坊が生まれたエピソードを入れたが、その際無事に生まれた赤ん坊を見て周囲の市民達が涙を流さんばかりに感動していたのはそういう事情によるものである。


話がそれたが、このように失われる生命が多かった為に、生まれると3日以内に洗礼の儀式を執り行ったのである。これは生存権を神に委ねると共に、壊れやすい小さな命が、死後神の加護を受けられることを願ってのこと。

 
ミレでは「子供が一人は、一人もいないと同じ」ということわざがある程である。

また、裕福な家庭の元に生まれた子供ならば将来的に新たな働き手となりうる反面、貧困な家庭にとっては大きな負担でもあった。


ミレ本編では、裕福というとやはりREGENDの貴族達や城下町の各内に住居を構える者達で、城下町の各街と呼ばれる(東西南北の外れに住む者)ところに家を持つ者(アイクやルナン、ダーク)、アーノルド実家などは貧困である。

 
ギリギリの生活を送っている人々にとっては、常に新しい生命の誕生が喜びをもって迎えられる訳がなかったのである。


又、生まれた子供を神に捧げるという名目で「奉献の子」 という制度があったが、大抵は親が育てることができない為に僧院や教会にその養育を委ねる、つまり捨て子と同じである。

 


■死の概念■


ミレニアムでは死は割と日常茶飯事の出来事(前述で記したように)として認識されている。だからこそ生への不安から死を恐れ、信仰の中に魂の救済を求めたのである。


しかし、信仰の中には魂の救済と共に、救済されない魂の苦しみ、地獄の恐ろしさという教えがある。(ファリス、ファラリス)この二つを信仰する教会で発行される「免罪符」は、現世に生きる者の罪は勿論のこと、あの世で苦しむ死者の魂にも有効であるとして一時期流行にもなった程。



【トランジ】


前に少しだけ触れたトランジだが、これは生前の罪をつぐなうために、自らをおとしめることによって、謙虚を表現しているといわれている。


富を求め、快楽を追求し傲慢の罪に汚れるのは貴族階級の者や高い官職に就いている者だけに可能な罪であることから、トランジを作るのはそういった高い位の人に多い。


(おまけにトランジを作る費用もバカ高いとあっては、一般の人にはどうやっても無理) 慣例行事としての「聖還祭」では、鏡など姿がうつるものはカバーをかぶせたりひっくり返したりして、死者の魂が己の姿を見て、自分の家から出て行かなくなるのを防いだり、ロウソクを立て、聖水を置いたりなどして、魔物から死者を守る意味を込めて行っていた節もある。
 

by つづらりんこ at 01:07 │TrackBack (0)

トラックバックURL http://blog.qlep.com/trackback/receive.php/162259/149236

面白い、参考になったと思われた方はクリック good

REGENDの日常会話編です。



【よみがな】 あけきん
【用語】 明け勤

【意味】 徹夜明けの勤務。前日徹夜して、引き続きそのまま翌日勤務すること

【使用例】 今日は明け勤だ〜
【備考】 ルナン「今に始まったことじゃあないな」
     ダーク「特佐の代名詞」



【よみがな】 あげる
【用語】 上げる(昇給すること)
【意味】 REGENDでは貴族出身に多い「アップ」する派と、古参実力主義に多い「能力給」派の間で不毛の議論が繰り広げられることが多い
【使用例】 セカンドからファーストまでまとめて上げといて
【備考】 ルナン「給料多いに越したことないだろ」
     ダーク「各街との落差はどうなる」



【よみがな】 あさいち
【用語】 朝一
【意味】 朝一番早く 
【使用例】朝の9刻( 9:00〜10:00 )頃、もしくは午前中か、その日によって違う。類語としては昼一という言葉もある。生理学的に見て朝一と昼一では朝一の方がはるかに能率が上がるとされている。
【備考】 ルナン「全く朝から疲れるんだよ」
     ダーク「お前はいつ疲れてないんだ?」


 

【よみがな】 あさいんする
【用語】 アサインする
【意味】 割振る、割当てる、任せる 
【使用例】 論理名(人間)に等価名(仕事)を割り当てること。「この仕事はXX君をアサインしてある」という使い方をする。



【よみがな】 あっ
【用語】 あっ
【意味】 驚きの表現 
【使用例】 この言葉を発した場合は、その人にとてつもない何かが発生したことを示している。しばらく近づかないほうが良い。主にルーティング表の割り当てをやっている時に発せられる時が多い
【備考】 ルナン「あ〜あ、何でこうなるかなあ。このクソ忙しい時に」
     ダーク「実際の人数よりルーティング表の人数の方が多いぞ」

 


【よみがな】 あてうま
【用語】 当て馬
【意味】 当てが決まっているのに指名されること 
同盟国から思いがけず見返りのでかい要請のオーダーが届き、「ほんと?」と思いながら提案すると「やっぱり」失注となること
【使用例】 「どうせ「当て馬」だからあまり力を入れるな」
「やっぱり「当て馬」だったか。くそーっ」



【よみがな】 あんぎゃ
【用語】 行脚
【意味】 連続した遠征 
【使用例】 明日から大陸行脚に行って来ます。
【備考】 ルナン「よくある話だ」
     ダーク「お前の場合は連続逃亡だがな」



【よみがな】 いきあたってばったり
【用語】 行き当たってバッタリ
【意味】 計画性がなく行き詰まった様子 
【使用例】 行き当たりバッタリの通常の結末
【備考】 ダーク「グッドカインド‥」
     ルナン「誰だ?それ」



【よみがな】 いきあたってばっちり
【用語】 行き当たってバッチリ
【意味】 感と経験と度胸で論理性のない好結果が生まれる様子 
行き当たりバッタリでの奇跡的に感のさえた状態。
【使用例】 そんな事はしゅっちゅうあるわけではないが、ごく希に『針の穴を通すアイデア』が生まれることがある。
【備考】 ダーク「グッドカインド‥」
     ルナン「だから誰だよ」



【よみがな】 いける
【用語】 いける
【意味】 大丈夫(かもしれない)こと 
あれやこれやとりまとめてまあなんとかなるか、という状況。
【使用例】 あれ、いけてる?
ん、まあ、ボチボチ (と言った後の笑い方でどの程度か推測する)
【備考】 ダーク「お前の口ぐせだな」
ルナン「そんなことないですよ」
ダーク「誰に向かって言っている‥」

 

 


【よみがな】 いちにさんちょく
【用語】 一・ニ・三直
【意味】 24間働くこと 
とにかくやむを得ない理由でその日に仕事を終えることが出来ずにひたすら働かなくてはいけない状態。夜中に一旦ハイな状態になり、思いのほか能率が上がったように思うがまさしく錯覚であり、明け方前から急激に体力が消耗する。翌日も朝から業務を行うものの使い物にならない事が多い状態。
【使用例】 「なんだ、今朝はえらい早いな」
 「・・・昨日一・ニ・三直・・・」
【備考】 ダーク「誰と誰の会話だ?↑」
     ルナン「ノーコメント」



【よみがな】 うぉーくするー /いんすぺくしょん
【用語】 ウォークスルー/インスペクション
【意味】 最初から最後までの検証 
自分が作った企画書、書類等を頭から尻尾まで歩くが如くじっくりと検証していく行為。作成者と検証者とで行う。これをドライブスルー並に流してしまうと、大抵は後でえらい目にあうことこれ必定。


●軍配備、遠征組・常備組配置、人数割、補給・支援隊配備などをそれぞれ複数メンバーによって検討し、その中に含まれているかもしれない不備の早期発見につとめるのがウォークスルーである。


不適切・不適当な配分は、特に遠征組などは時間が経過するにつれて、傭兵支援要請など余計な費用がかかってしまい、増大するものである。

 
早期発見の費用節約に果たす役割は大きい。

 
インスペクションは、ウォークスルーが発見した不備を文書・書状化し、それを管理用のデータとして用いる。すなわち不備はタイプごとに分類され、その頻度が集計整理される。要はやりっぱなしではなく、経験を累積してその結果を将来に生かそうというのがインスペクションである。


●これをまとめると、ウォークスルー⇒インスペクション( 点検 )⇒オーディット( 監査 )という風になる。オーディットは最終的に承認するところまでいきつく。


 

【よみがな】 えいや
【用語】 エイヤ
【意味】 力仕事のこと 
一般的には単純仕事で量のある仕事であることが多い。
【使用例】 「エイヤの作業で明日までだな」


 

【よみがな】 じぇんする
【用語】 ジェンする
【意味】 ジェネレートする? 
「generateする」の略。まぁ何かを生み出すのだろう。




【よみがな】 したをかむ
【用語】 舌を噛む

【意味】 言い間違うこと 
あれこれややこしいことを、その場その場でほらを吹いていると、そのうち話のつじつまが合わなくなること。
【使用例】 「舌噛んじまった」




【よみがな】 しゅらーげ
【用語】 シュラーゲ/アンロック
【意味】 宝物庫・金庫などの部屋に入室する際の開錠呪文
【使用例】 ルナン「開けゴマ!」
     エマ「バカたれ!シュラーゲじゃ」




【よみがな】 しゅらば
【用語】 修羅場
【意味】 やっぱり修羅場 
城内・外問わず色々な局面で起きるどたばた。
【使用例】 騎士の価値は修羅場をどれだけくぐってきたかで決まるのだ。




【よみがな】 すー
【用語】 すー
【意味】 おはようございます 
朝、一般兵らの間で交わされる言葉。
本人は「おはようございます」と言っているつもりだが、相手には最後の
「すー」しか聞こえない。類義語に「あざーす」( ありがとうございます )もある。



 

【よみがな】 ぜったいです

【用語】 絶対です
【意味】 まず100パーセント大丈夫です。 
トラブルや作戦の失敗を起こした部隊が打開策を講じ、隊長に向かって啖呵を切る際の決まり文句。まあ、無敵艦隊が無敵であったためし無しと同じで、往々にして・・・・。
【使用例】 「今度は大丈夫だろうな!?」
 「絶対です!」
・・・・ 翌日朝一 ・・・・
 「・・・・・・・」
 「絶対と違ったのか!」
 「いやあ、そのう・・・」

 



【よみがな】 たいしょうりょうほう
【用語】 対症療法
【意味】 応急処置をほどこす 
根本原因には手を付けずに表面的には修正されたように見せかける。
主に大砲・飛行艇関係の設計や開発で使われることが多い




【よみがな】 でぃーまに
【用語】 ディーマニ
【意味】 操作説明書(大砲・飛行艇・その他特殊武器など) 
ディレクションマニュアルの略。
使い手の立場に立った書き方が必要とされるが、言うは易く行うは難い




【よみがな】 にぎる
【用語】 握る
【意味】 合意する。あるいは、隠してしまう。 
同盟国・保護国のお偉方などと合意する事に対して使う場合と、上司などに対して報告せずに隠してしまう2つの意味がある。
前者は握手の意味、後者は握りつぶすの意味か?
【使用例】 「そこのところを保護国に対してよく握っておかないと後で問題になるぞ」
「このことはちょっと握っておこう」




【よみがな】 にげる
【用語】 逃げる
【意味】 カバーする、応急処置をほどこす、帰る 
いろいろな意味がある、味わい深い言葉。
運用で逃げる→本当は問題があるんだけど運用でカバーすること。
今日は逃げる→本当はいなければいけないのだが帰ってしまうこと。
とりあえず逃げておく→応急処置をほどこすこと。問題が顕在化しなければ
そのままにしておこう。


 

 


【よみがな】 のりしろ
【用語】 糊しろ
【意味】 余裕分 
スケジュール等の余裕分。粉かけるとかいう言い方もある。
【使用例】 「締め切りに糊しろは見てないから厳守してくれよな」




【よみがな】 はらいっぱい
【用語】 腹一杯
【意味】 抱えている仕事がおおすぎて身動き取れないさま 
とにかく抱えた仕事が手いっぱいでにっちもさっちもいかなくなった状態、
もしくはいかなくなる直前の状態を言う。
【使用例】 「××、いま腹一杯?」
「もう満腹だよ」



【よみがな】 ひがつく
【用語】 火がつく
【意味】 トラブルが発生する 
もっとひどい状態になると「火をふく」という。
そうしてトラブルが解消される頃はみんな灰人になっている。
【使用例】 「そろそろ火がつくぞ」
「いや、もう火をふいてる」



【よみがな】 えいやで
【用語】 エイヤで
【意味】 大体の線で 
まぁ大体の線で、あるいは細かい話なんかどうでもいいから経験と勘で、ぐらいの意味である。類語として「ざっくり」。
【使用例】 「エイヤでいいから本日中に仕上げてくれ」




【よみがな】 おちる
【用語】 落ちる
【意味】 降格すること
【使用例】 「わぁー!2部落ちした」




【よみがな】 おまじない
【用語】 おまじない
【意味】 根本原理はいろいろ難しいのだが、とりあえずそういうふうに言っておけば大丈夫というようなもの。

説明してる人もちゃんとは理解していない場合が多い。
【使用例】 「これはおまじないですから気にしないで下さい」



【よみがな】 おんすけ
【用語】 オンスケ
【意味】 スケジュール通り 
遅れるのがわかっている慣行儀礼の場合「オンスケで0クール遅れ」ということもある。




【よみがな】 かくしだま
【用語】 隠しダマ
【意味】 表に出ていない作戦 
勝算、被害削減をクリアした上に持っている作戦で、大変うらやましい。
考査会などで予算額をショートしそうな時に出すとかっこいいらしい。
【使用例】 「俺に隠し玉を持たせてくれ」




【よみがな】 かんかい
【用語】 環改
【意味】 使用者と交渉する委員会の代表環境改発委員会の略。決して、氷寒魚の干したものでも、環7や環8のお友達でもない。




【よみがな】 かんぺき
【用語】 完璧

【意味】60%
REGENDでは、たぶん60%ぐらいの出来のこと。
「君は完璧さ」と言われてもREGEND住民にかかると「君はたかだか60点ぐらいだよ」ということになってしまい、せっかくのくどき文句も台無しになってしまう。

 

 


【よみがな】 きったはった
【用語】 切った貼った
【意味】 支援受理書の調整 
土壇場に来て支援の調整をおこなうこと。
相手の要求を飲むかわりに(貼った)、優先度の低いものを落とす(切った)ことを調整する。
【使用例】 「ここまできたら切った貼ったの世界だし」
↑場所を考えて使用するように



 

【よみがな】 きをうしなう
【用語】 気を失う
【意味】 居眠り 
居眠りしてたのをごまかして「気を失ってた」と言い張る人がいる。
【使用例】 「あー、一瞬気を失ってた」 →決して一瞬ではないことが多い




【よみがな】 くさった
【用語】 腐った
【意味】 使い物にならない 
新鮮なのに腐っている場合もあるらしいが…
【使用例】 「どの案も腐ってて使い物にならないな」




【よみがな】 けいけいでぃ
【用語】 ケイケイディ
【意味】 勘と経験と度胸 
熟練者の磨かれた勘は、下手な論理的手法よりも正確だったりするのであなどれない。 「はったり」と合わせて、ケイケイデイエイチと言ったりもする。
【使用例】 「このルーティン割の根拠は?」
「ケイケイディで組んでみました」




【よみがな】 こびとさん
【用語】 小人さん
【意味】 @夜中に手伝ってくれる A知らない間に悪さをするB夢魔の中に住んでいるらしい 
どう考えても守れるはずがない期限が守れてしまったとき、そういうときは「小人さんが手伝ってくれた」のである。けれども、悲しいかな、彼らは非常に気まぐれなの